REALTOKYOピックアップイベント:映画
キツツキと雨
冒頭、木こり役の役所広司が何やら男に注意されている。次いで登場する小栗旬はぼーっとしたまま正体が定まらない。事情がよく飲み込めないが、こんなシチュエーションだけですでに笑いがこみあげる。やがて状況が見えてくると、おもしろさはエンジン全開に。『南極料理人』では絶妙なユーモアで心を温めてくれた沖田修一監督、今回も人情と笑いを巧みな技で編み上げ、抜かりない。ベテラン木こりと新人映画監督の珍妙な出会いと交流、なりゆきでゾンビ映画にエキストラで出演することになった木こりは……。森で起こる意外な出来事を「あるかも?」と思わせる親近感、沖田節は絶好調だ。
February 5, 2012タンタンと私
4日間にわたるフランス人学生によるタンタン作者エルジェのインタビュー音源をもとに、タンタンシリーズの魅力の秘密とエルジェの生涯を紐解くドキュメンタリー。大のタンタンファンであるデンマークのオステルガルド監督は、30年間眠っていたというノイズだらけのテープに残されたエルジェの味のある生声に感動、既存のエルジェの映像に音声をシンクロさせることで動くエルジェを再現している。世界各地から海底や月まで冒険するタンタンにはどんな想いが籠められたのか? 戦争、離婚、ノイローゼ、中国人との出会い……、驚きの人気作家の秘密がセンスよく明かされる。
February 5, 2012ハンター
ダイナミックな自然が広がるオーストラリア・タスマニア島。軍事バイオテクノロジー企業の依頼で、70年も前に絶滅したとされるタスマニアタイガーの生き残り捕獲というミッションを背負った男が降り立つ。行方不明になった動物学者の家で、その妻子と暮らすことになるが……。「絶滅種がもし生きていたら」という発想にときめき、それを軍需産業に利用しようとする側と阻止する側の対立構造が見えるサスペンスに心が躍る。シャープなルックスのウィレム・デフォーが傭兵上がりの孤独なハンター役にぴったり。ラスト数分のシークエンスに思わず息を呑み、タイガーを絶滅させた人間の業の深さに思い至る。
February 1, 2012最高の人生をあなたと
建築家の夫アダムとロンドンで暮らすメアリーは、60歳を前に「記憶の空白」が気になるこのごろ。結婚して30年、3人の子供たちも成長した。そろそろ年齢を意識した生活にシフトしたいメアリーと、いつまでも若くありたいアダムの間に溝が生まれて……。名匠コスタ=ガヴラスの娘、ジュリー・ガヴラス監督の『ぜんぶ、フィデルのせい』に続く長編第2作。「老い」という、誰にでも忍び寄るシリアスで陰気になりがちなテーマを、ユーモアを取り入れながら、軽快な音楽にのせて洒脱に描く。主演の2人、イザベラ・ロッセリーニとウィリアム・ハートの堂々たる老けっぷりがチャーミングに映る。
January 31, 2012NINIFUNI FULL VOLUME ver.
車がビュンビュン通り過ぎる国道沿いを突き進む2人の男。店に強盗に押し入り、1人が車を盗んで逃走。ひたすら走って海にやってくる。数日後、その浜辺にアイドルユニット・ももいろクローバーとPV撮影クルーが到着し、盗難車が発見されるが……。前作『イエローキッド』で鮮烈な印象を残した真利子哲也監督による、得体の知れないエネルギーが充満した作品。重苦しいシークエンスに突如ポップでにぎやかなPV撮影のシーンが組み込まれ、際立つコントラストに胸騒ぎを覚えるが、私たちの日常もこんなふうに明暗が隣り合わせにあると気付く。海と空のおどろおどろしい表情を捉えた映像も印象的。
January 31, 2012東京プレイボーイクラブ
とある場末の繁華街。寂れたサロンを営む旧友・成吉を頼って、ワケありで上京した勝利が身を寄せる。店の金をくすねて逃げたボーイに怒った成吉は、ボーイの恋人エリ子を店で働かせるが……。第12回東京フィルメックスで学生審査員賞を受賞した、1986年生まれの奥田庸介監督による商業映画デビュー作。若さにまかせて疾走、有り余るエネルギーが迸る。キャスティングが魅力的で、CMで「いい人」を演じる大森南朋のキレっぷりに震え上がり、光石研のおとぼけに笑う。その緩急のリズムが心地よい。2/25(土)までの毎週金・土曜は視覚障害者のための音声ガイダンス付き上映を実施!
January 31, 2012人生はビギナーズ
「僕はゲイなんだ」。75歳の父、ハル(クリストファー・プラマー)の告白を受け止める息子。じゃあ父にとって、母や僕の存在は何だったの…? 複雑だけど、何より「自分らしく生きる」と決めた父の勇気をあたたかく見守る38歳、独身のオリヴァー(ユアン・マクレガー)。自身のプライベートストーリーを、マイク・ミルズ独特のアートとウィットに包み込み、さらに話ができる犬(コスモ)も大活躍、粋に優しく描いている。父のように自分も心を開いてみよう、と内向的なオリヴァーも1歩踏み出すが…。アナ(メラニー・ロラン)との絡みもたまらなく愛らしく、永久保存版になること間違いなし。
January 30, 2012イエロー・ケーキ〜クリーンなエネルギーという嘘
原発の燃料となる、ウラン鉱石から作られる粉末「イエロー・ケーキ」。現場で働く鉱員たちは放射能を帯びた鉱石が有害だと知らされず、すべては隠蔽されていた……。ドイツのヨアヒム・チルナー監督が2005年から5年間かけてウラン採掘現場を追ったドキュメンタリー。「安全でクリーンなエネルギーをなぜ悪く言う?」と鉱員。「雇用を生み、国を豊かにした。ナミビアの人々は感謝するはず」と採掘会社。「なぜ掘り返す? クリーンな環境できれいな水を飲みたい」というオーストラリア先住民の率直な訴えも印象的だ。私たちも決して無関心ではいられない、川上の現実をしっかり見ておこう。
January 25, 2012ヒミズ
池の端にある貸しボート屋の息子、住田佑一は15歳の中学生。借金を抱えた父親は蒸発し、男を連れ込む母親はやがて家出。住田に憧れる同級生の茶沢景子は孤独な彼を励ますが……。古谷実の同名のコミックを、設定を3.11後に変更して園子温監督が映画化。ひりつく痛みを抱えて生きる中学生を、若手演技派の最右翼、染谷将太&二階堂ふみが演じてヴェネツィアで最優秀新人賞をW受賞。瓦礫が散乱する風景を利用して3.11後を表すセンスには感心しないが、役者の演技と魅力を最大限に引き出した監督の力量には大いに感服する。若くキュートな2人の効果で、いつもの園監督作品とは異なる味がした。
January 14, 2012果てなき路
『ROAD TO NOWHERE』と書かれたDVDを男がパソコンに入れるシーンから幕を開ける。実際に起きた犯罪をベースにした映画を準備中の監督ミッチェルは、無名の女優ローレルを見出して主役に抜擢、そして彼女と恋に落ちる……。今年80歳になるモンテ・ヘルマン監督が、21年ぶりに全編デジタル撮影で手掛けた新作。映画撮影のクルーたち、劇中劇となる映画のドラマ、そのベースになった事件が幾重にも入れ子状になり、虚実の境界がファジーで、サンプルのDVDを観ている私もまた本作に参加しているような気分に。筋を理解するというより、映画ってなんなのかと考えさせられる不思議な作品。
January 13, 2012哀しき獣
中国・延辺の朝鮮族自治州。貧しいタクシー運転手グナムは、借金帳消しの代わりに韓国での殺人を請け負う。密航船で海を渡り、ソウルへ。出稼ぎに行き音信が途絶えた妻の足取りも追うが……。『チェイサー』のナ・ホンジン監督第2作は、ハ・ジョンウとキム・ユンソクを再び主演に起用したダイナミックなサスペンス。朝鮮半島西側の黄海を挟んだ中国と韓国を舞台に、前作からぐんとスケールアップした息もつかせぬドラマが展開される。ド迫力のカーチェイスなどスペクタキュラスな見せ場と、妻を捜す夫の心情を繊細に綴る人間ドラマ、バランスが取れた極上のエンタテインメントに、最後の最後まで釘付け。
January 11, 2012ミラノ、愛に生きる
ミラノの富豪に嫁いだロシア人のエンマ。3人の子供たちも成長し、不自由のない生活だが、息子の友人でシェフのアントニオに出会い、胸のざわめきを感じて……。ノーブルなオーラ漂うイギリス人女優ティルダ・スウィントンが英語を封印し、イタリア語とロシア語で挑んだルカ・グァダニーノ監督作品。イタリアのフォトジェニックな風景、美術館のような豪邸のインテリア、センシュアルな料理、Jil Sanderのヴィヴィッドな衣装、それを着こなすティルダ。肉体と植物のカットを交互に織り成したラブシーンも夢のよう。11年かけて本作のプロデュースにも携わったという、彼女の気合いがひしひしと伝わる。
December 22, 2011サラの鍵
現代ジャーナリストのジュリアと戦時下を生きた少女サラを繋げるパリのアパルトマンの部屋。最近明らかになったフランス当局によるユダヤ人迫害によって、家族全員が警察に連行されようとしたが、姉のサラは機転を利かせて幼い弟を納戸に隠し鍵をかけた。弟を救いたい一心で死にもの狂いで収容所を脱走、奇跡的に部屋に戻ってサラが見たものは…。ブレネール監督は過去と現代を美しく交差させ、現代人の無関心に警鐘を鳴らし、過去を知ることの痛みも描く。それでもなお「真実を受け止めることがよい未来を作る」という信念が胸を打つ。東京国際映画祭観客賞、監督賞をW受賞の感動の一本。
December 17, 2011風にそよぐ草
バッグを引ったくられたマルグリットと、彼女の財布を拾ったジョルジュ。初老の男女が出会い、すれ違いながらも恋に落ちる……。というあらすじだけだと普通のラブロマンスとも思えるが、この奇妙な珍品は一筋縄ではいかない。予想を裏切りまくるストーリー展開は「Fin」と出た後まで気が抜けないし、浮遊感と遊び心に富んだ演出と映像など、89歳の巨匠アラン・レネの大人すぎるセンスとユーモアが満載なのだ。監督が惚れ込んだ原作はクリスチャン・ガイイのベストセラー小説『L'incident』。ミュージシャン志望だった作家というから、映画の独特なリズムは原作によるものかも。
December 13, 2011孔子の教え
紀元前6世紀の中国。混乱の時代に魯の君主から位を与えられた孔子は、因習を廃止し、外交に力を入れるなど改革を進めていた。近隣各国に才能が知れ渡り、功績が認められるが……。2500年前の偉人、孔子の本格的な映画化は意外にも本作が初めてだとか。チョウ・ユンファを主演に射止めたフー・メイは、チャン・イーモウ、チェン・カイコー、ティエン・チュアンチュアンらと並ぶ第5世代の女性監督。孔子を崇拝する専門家たちの横やりに心が折れそうになりつつも、33回も改訂したシナリオで見応えのある大作を仕上げた。ダイナミックな映像、ブルーを基調とした衣装も美しく、心を揺さぶられる。
November 10, 2011
