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    聞き手:前田圭蔵
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対話の庭

第7回:スティーヴ・ライヒさん(後編)
聞き手:前田圭蔵
Date: October 21, 2008
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ライヒ氏(右)と前田氏

都市を舞台に活躍する、パフォーマー、アーティスト、デザイナー、プロデューサーなどの表現者たち。彼らがいま抱く、表現活動への姿勢やスタイルに迫るインタビュー連載。今回は引き続き、ミニマルミュージックの巨人、スティーヴ・ライヒを迎えての対話の後半をお送りします(インタビュ―は2008年5月来日公演時に収録)。

前回からの続き>

 

「バッハは何かの始まりである前に、何かの終わりでもあった」というあなたの言葉が、「20世紀の音楽の歴史についても当てはまるのでは?」と言うのはどういうことでしょうか。

 

つまり、シュトックハウゼン、ベリオ、ブーレーズの時代はいつまで続くんだろうか、という問いだね。もちろん彼らの成し遂げたことは評価しているけど、一方で観客は増えず、また演奏家にとってもひどく難しい演奏技術が要求される音楽……。たとえ僕がいなかったとしても、誰かがこう言ったはずだ。「ちょっと待てよ。こんなことだけで音楽は良かったのか?」とね。西洋音楽の歴史上、こうした動き(ブーレーズなどの音楽に対するカウンターアクション)は、必然的に僕の時代、さらにはアメリカから生まれなければならなかったのかもしれない。あるときデヴィッド・ラング(編注:バング・オン・ア・キャンの主要メンバー)が僕にこう言ったんだ。「君の時代が羨ましいよ」と。当時のアメリカン・アカデミックは、ヨーロッパの同時代音楽に一所懸命に追随していたけど、同時にハンバーガーとチャック・ベリーの国だからね! 「Knock, Knock, anybody home?」だよ?(笑) そしてまたジャズの影響も大きいと思うね。ビーバップ、そしてコルトレーン! ベースラインが30分も続くんだ!

 

あなたは当時のアメリカ音楽、特にジャズを中心とした黒人音楽にも、とても影響を受けているんですね?

 

「ドラミング(パート1)」(2008年5月来日公演)
撮影:伊藤真司 提供:東京オペラシティ文化財団

もちろんさ。アフリカ音楽やガムラン音楽とともにね。ノンサッチ(編注:現在はライヒ作品を数多くリリースする名門レーベル)が当時からその辺りのレコードを発売していたから、たくさん聴いていたしね。ひとつのトーンがどのくらい長く続き、そしていつどのように変化していくのか。それも指揮者の棒を「見る」ことによってではなく、演奏家自身の「耳」だけを頼りに、ということにとても興味があった。そして「18人の音楽家のための音楽」が生まれたんだ。

楽曲のオーケストレーションや楽器構成を選び、その音色を決定するのは、すべての作曲家の責務だと思う。僕も80年代後半に、いわゆるオーケストラ作品を書こうとしたことがある。それはとても長くかかったんだけど、そのとき気付いたんだ。「僕には18人もの第1バイオリンや、16人もの第2バイオリンなど必要ない!」とね。僕に必要なのは最大でも3人、もしくはたったひとりの(音が)増幅されたバイオリンで充分なんだ。特に室内楽的な雰囲気を作るためには、そうした「数」の増大はかえって妨げになることもある。同じ楽譜を演奏するバイオリニストが18人もいて、総勢100人近い演奏家が同時に演奏すると、まずお互いの音が聴き取りづらくなるし、重くなるだろう?

さらに、ひとりひとりがまったく同じように正確に楽譜をなぞり演奏することは、まずあり得ない。19世紀のロマン派音楽にとってはその響きがとても合っていたと思うけれど、バッハの音楽には適さないよ。だから(大勢でバッハを演奏する際には)弱音したりする工夫が必要になる。モーツァルトのときはまだ弦楽オーケストラが中心だった。それがベートーヴェンの時代になり、トロンボーンやクラリネットが加わり、それに伴い弦楽は数を増やす必要があったんだ。そしてワーグナーに至るんだ。管楽器も大幅に増え、それに伴い弦楽器はますます増大していき、行き着くところまで行ってしまったのかもしれないね。

 

なるほど。

 

「18人の音楽家のための音楽」(2008年5月来日公演)
撮影:大窪道治 提供:東京オペラシティ文化財団

いずれにせよ、僕の音楽にそんな大きなオーケストレーションは必要ないんだ。そしてそのことはある種の「透明度」を保つことにもなる。『18人〰』のボーカルスタイルは、マイクやアンプといった技術なしには成り立たない。それによって、打楽器を含めた他の様々な楽器と均衡した新しい「声楽」が成立していると思う。

例えばマイルスの演奏を思い出してみよう。彼は、マイクをまるで楽器の一部のように使って演奏した。トランペットにミュートをかけ、同時にそのトランペットをマイクに思い切り近づけて増幅させる……。もちろんそれがどのように聴こえるか計算し、巧みにコントロールしている。ディジー・ガレスビーが演奏するのが普通のトランペットだとしたら、ある時期のマイルスが演奏していたのは、ミューティッド・アンプリファイド・トランペットなんだ。これは革命的だったと思う。彼は天才だよ。そして僕らはそうした音楽に囲まれて育った第1世代かもね。だから、僕にとって音の増幅という技術を使うのは自然なことだし、それはいま音楽を享受している皆にとってもそうではないかな。僕の音楽はもちろん生楽器を必要とするけど、同時にサウンドシステムも必要としている。音を大きく聴かせるためではなくて「音をブレンドするため」だけどね。

『18人~』ではバスクラリネットの音作りにいつも苦心する。あの音を内輪では「ビッグフロッグ」と呼んでいるんだけど、あのパートはエリック・ドルフィーの演奏からヒントを得たんだ。実はあの演奏では、あえてクラリネットの先端を、ほとんどダイナミックマイクに突っ込んで演奏している。常識的には間違った使い方だけど、おそらくドルフィも録音時にそうした技術を駆使したのではないかな。レコードを聴いた多くの人から言われたよ。「あれはどんな種類のシンセサイザーを使ったの?」とね(笑)。

 

74年に作曲したとき、すでにあの、クラリネットによるベースラインの構築というアイデアはあったのですか。

 

いや。マリンバとコードピアノはあったけどね。ベースラインはまだなかった。リハーサルを重ねていたあるとき、ひとりのクラリネット奏者と試してみて「これは使えるかもしれない」と思ったのが始まりさ。それからこれも知られていることかもしれないけど、あの曲は最初は21人で演奏されていたんだよ。ツアーをするうちに、経済的な理由でもっとシンプルにできないかと考えて(笑)、20人になり、19人になり、そして最後に18人で演奏できるようになったんだ!

 

マラカスのアイデアは?

 

マラカスは『Four Organs』でも使っている。家にLPのレザーカバーマラカスがあって、なぜかそれを使いたかったんだ。あれだけリズムを一定にキープする演奏は、サディスティックなほどハードだけどね(笑)。

 

では、今後の予定を教えて下さい。

 

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最新アルバム「ダニエル・ヴァリエーションズ」
WARNER MUSIC JAPAN/発売中)

『Two X 5』というロックンロール作品を今年中に完成させ、マンチェスターでの初演を予定している(本記事前編参照)。ぜひ東京でも演奏されることを願っているよ。また、いくつかのパーカッショングループに曲を書いているし、クロノス・カルテットにも新曲を書いているところだよ。リーダーのデヴィッド・ハリントンからは、新しいエレクトリックピースを、と言われている。これはおそらくまたスピーチ(声)を使ったものになるだろう。9.11に関係した作品になるかもしれないけど、まだわからない。

 

今日はありがとうございました。最後にあなたにとっての東京のイメージを聞かせて下さい。

 

間違いなく世界最大の町だね。とにかく巨大だ! 人口密集地だけで直径70km近くもあるんだろう? なのにひとつひとつの通りに名前がついていないんだよ! あり得ないよ。こんなところでどうやって暮らせるのかまったく理解できない(笑)。この前も恵比寿に行きたい所があって、地図を持って近くまで行き、ある日本人にそれを渡して行き方を尋ねたんだ。そうしたら彼はじっくりと地図を眺めた後にこう言ったんだよ! 「あいにくわかりません」とね(笑)。

 

ゲストプロフィール

Steve Reich/作曲家。1936年ニューヨーク生まれ。ミニマルミュージックの先駆者として知られ、曲作りのコンセプトから演奏法まで常に実験精神を失わないその活動で、いまなお新たな音楽世界を生み出し続けている。『ディファレント・トレインズ』で90年のグラミー賞(ベスト・コンテンポラリー・コンポジション部門)を受賞。99年には『18人の音楽家のための音楽』で2度目のグラミーに輝いた。コールドカット、竹村延和、ケン・イシイらが参加した『ライヒ:リミックス』(99年)が発売されるなど、ジャンルを超えて音楽界に多大な影響を与えている。08年5月、「コンポージアム2008 スティーヴ・ライヒを迎えて」で来日した。

寄稿家プロフィール

まえだ・けいぞう/1964年生まれ。多摩美術大学芸術学科卒。在学中にポスター・ハリス・カンパニー設立に参加し、パルコ劇場、スタジオ200、夢の遊眠社などの宣伝協力に携わる。卒業後、世田谷美術館学芸課に学芸員として勤務し、その後株式会社カンバセーションアンドカムパニーに入社し、プロデューサーとして数々のダンス公演やコンサート制作を手掛ける。現在はNPO法人リアルシティーズのディレクターとして、『フェスティバル/トーキョー11』の制作や音楽プロデュース等を手掛けている。