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インディペンデント編集者のTOKYO仕掛人日記

第14回:書物のスピード感
菅付雅信
Date: January 07, 2009

12月某日

「新しい郊外」の家(太田出版)
馬場正尊『「新しい郊外」の家』(太田出版刊、定価1480円+税) 1月14日発売

「東京R不動産」のディレクターとしても知られ、リノベーションブームの立役者である建築家、馬場正尊さんの本『「新しい郊外」の家』(太田出版)が完成。すでにこの連載でも伝えているが、馬場さんがふと郊外の可能性に気づき、勢いで房総に土地を買い、家を建て、さらに周囲の住宅までも設計し、ひとつの村を作っていくストーリーだ。でも、いわゆる建築家の自邸自慢と異なり、銀行からローンを断られ続け、ようやくローンが通った後も、いかに安く、しかもクリエイティブに作るかという内幕を赤裸々に語り、実際の見積書も1円単位ですべて掲載。モダン住宅を造る際の実情をあますところなく語っている。

なので、建築家の本にありがちな頭デッカチの住宅論ではまったくなく、東京生活に疲弊感をもつひとりの都市生活者としての「自分はどこに住むのか」という問い、そして家族の家をめぐる独特な変遷、金銭をめぐる悩みなどを、軽妙な文体で実に率直に語った、優れた住宅エッセイとして読める1冊に仕上がっている。とても個人的でありながら、とても多くの人が共感できる住宅論でもあると思う。日本人は、あまりに「住む」ことに無頓着、と改めて考えさせる本になっているはずだ。

馬場さんが「房総ノリ」と称する独自の熱とスピード感に感化されるように、さらに馬場さん宅ならびにこの一宮サーフビレッジというモダン住宅村が急ピッチで完成するスピードに合わせるかのごとく(馬場邸&村は10月末に完成した)、この本は7月に企画し、9月から作業にかかり、11月頭に一気に原稿と写真を入稿して、こうやって12月に見本が上がった。こういうスピード感を持つことも書物には可能なのだ。

ポップな装丁は、100%chocolate cafeのパッケージやリップスライムのジャケットなどで知られるデザイン集団グルーヴィジョンズ。写真は、建築写真の第一人者、阿野太一さん。手に持ったときの独特の軽やかさ、そして表紙と帯の仕掛けもぜひ楽しんでほしい。

 

12月17日

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撮影終了後の原裕美子さん

原宿でモデルの原裕美子さんをビデオ撮影。これは、来年4月に発売する自分の編集作品集『編集天国』(ピエブックス)と連動して行われる同名の展覧会で発表するビデオ作品のためのもの。

編集作品集? そう聞いただけで訝る人もいるだろう。自分ですら、そうだ。でも世の中にグラフィックデザイナーの作品集が氾濫しているのに、なぜ編集者の作品集はないのだろうとかねてから思っていた僕は、他が出さないのなら自分で出そうとおこがましくも思ったのだ。そこで、今まで手がけてきた雑誌、本、パンフ、レコジャケ、広告、映画パンフ、ファッションカタログ、ウェブなどを網羅して、それらの解説をバイリンガルで掲載し、さらに何本か対談、インタビューなども収録してまとめようという代物。アートディレクションは中島英樹さん、カバーのイラストはパリのフロランス・デガさんにお願いしている。

さらに刊行時に展覧会を予定しており、その展示で上映するビデオを制作しようと、僕のミューズであるモデルの原裕美子さんに出てもらったのだ。

どんなビデオかは展覧会場での楽しみにしておきたいので多くを語らないが、彼女でビデオを制作するのはこれで2度目。1度目は2007年の竹尾ペーパーショウの際に、僕とフロランス・デガとアレクサンダー・ゲルマンとのパネルディスカッション用の映像として制作。今回はその映像作品のアップデート版という内容。

撮影は、知人のコマーシャル制作会社、ロックンロール・ジャパンのミーティングルームを使って行なった。勘のいい彼女、リハ1回、本番2回であっというまに終了。

最近出た、59人のスタイリストがそれぞれ独自のスタイリングを手がけて話題のアディダス・オリジナルズのフリーマガジンでもモデルを務め、数10とおりのぶっ飛んだキャラを演じていた彼女。原裕美子の登場は、ファッションのアイコンもまた大きく変わりつつあるなと思わせる。旬なモデルとは、「今日を明日に感じさせてくれる」人。原さんと一緒にいると、それを実感させてくれる。

Sugatsuke Office http://www.sugatsuke.com

寄稿家プロフィール

すがつけ・まさのぶ/編集者。元『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』編集長。出版からウェブ、広告、展覧会までを“編集”する。近年編集した本は『六本木ヒルズ×篠山紀信』、マエキタミヤコ『エコシフト』、森山大道『フラグメンツ』など。ウェブでは坂本龍一のレーベル「コモンズ」のディレクションを手がける。マーク・ボスウィック写真集『シンセティック・ヴォイシズ』で、NYADC賞銀賞受賞。