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PERFORMANCE

contact Gonzo × やんツー
『jactynogg zontaanaco ジャkuティー乃愚・存taアkoコ』
ANOMALY
2023.5.20

Written by 小林桂子|2023.7.17

撮影:高野ユリカ

 

contact Gonzoとやんツーによるこの作品は、2019年にトーキョーアーツアンドスペース本郷で行われた『untitled session』に続くもので、contact Gonzoによるパフォーマー同士が互いに攻撃し合う(ように見える)ケンカのようなパフォーマンスを、AGV(Automatic guided vehicle、無人搬送車)と自律して動くよう改造されたセグウェイが「観察」し「説明」しようとする。この公演に先立ち、ワークインプログレス公演が3月に大阪で上演され、その時のレポートも公開されている*1。

 *1 https://theatreforall.net/feature/feature-8568/

 

ウェブサイトにあるように、今回の作品には大きく二つのポイントがある。一つはAIとの協働であり、もう一つはこの公演が「TRANSLATION for ALL」*2というフェスティバルの一環として行われたことである。

 *2 https://theatreforall.net/join/jactynogg-zontaanaco/

 

まず、一つ目のAIとの協働について。

この作品には、画像に対して自動的にキャプション(説明文)を生成する「イメージキャプショニング」という技術が使用された。AIは画像を解析し、形や特徴を検出し、画像内の物体やその関係性を認識することで画像の内容を理解する。そして、自然言語処理の手法―文章を分解して文法や構造を把握する方法や、文脈から意味を理解する方法、特定の情報を抽出する方法、文中の感情や意見を判定する方法などーを用いてキャプションを生成する。

パフォーマンス会場の床に貼られた銀色のラインは、AGVの線路の役割を果たし、100kgの耐荷重があるAGVは、時にはパフォーマーを乗せたまま移動する。セグウェイは人間が運転しなくても自律的に移動できるように改造されている。それぞれの機器に搭載されたカメラは、十数秒ごとに静止画を撮影し、その画像からAIが生成したキャプションがパフォーマンス会場の壁面に投影された。AGVのキャプションは男性の人工音声で、セグウェイのキャプションは女性の人工音声で読み上げられた。また、観客の姿もAGVとセグウェイのカメラに晒される可能性があるため、contact Gonzoから希望者に対して顔を隠すマスクが配布された。

 

撮影:高野ユリカ

 

contact Gonzoのパフォーマンスは、さながら格闘技のように互いの身体をぶつけ合うもので、そこにルールがあるかどうかははっきりしない。身体がぶつかった時の重い音や乱れる呼吸が不安な気持ちを引き起こす。これらを言葉で説明することは非常に難しいと思う。本作において、AIは、パフォーマンスを言語に置き換える翻訳者の役割を果たすと説明されたが、その「翻訳」はどうだったか。

AIが生成するキャプションは、下の画像のように、目の前で起こっていることとは「違う」内容が語られる。しかし、これは「違う」のか?

パフォーマーたちは、衣装を変えたり、楽器を手にしたりと、AIがどう認識するかを試しながら戦っていた。的を射たキャプションが入るかどうかを探っていたのかと思うが、今回のAIのキャプションを見ていると、それが学習してきたデータの内容や傾向がうっすらと現れていて、「人間以外の知性」とおしゃべりしながら鑑賞しているような気分になり、翻訳や説明の役割としてみるよりも面白く感じた。私にはわからなかったけれど、AIには彼らの目のなかに悲しみが見えたのではないだろうか。

 

撮影:高野ユリカ

 

二つ目の「TRANSLATION for ALL」について。

このプロジェクトは、「身体表現を観客に届ける道中のさまざまな障壁を、それぞれの作品が各々の手法で乗り越え、アクセシビリティをALL=あらゆる人に向けてひらく挑戦」*3を行うものだと説明されている。

*3 TRANSLATION for ALL  https://theatreforall.net/translation-for-all/

 

ワークインプログレス公演の後「人間による実況」を導入し、今回の公演の直前のゲネプロで視覚障害者のモニターによるヒアリングを行ったという。この実況は、ダンサーの仁田晶凱が担当し、ウィスパリング(ささやくような説明、通常は説明が必要な人の近くや背後でその人(たち)にだけ聞こえるように行う)をマイクで会場全体に聞こえるようにし、パフォーマンスの進行や身体の動きを伝える役割を果たした。仁田の実況は、腕をどのように曲げているといった身体の動かし方や、身体同士が複雑に絡んだ状態を的確に表現し、さらに、現場の空気感や、パフォーマーのリズムが言葉に反映され、まるでラップのようで、聴いていて気持ちのよい実況だった。

 

撮影:高野ユリカ

 

AIの「おしゃべり」と仁田の実況は、パフォーマンスの要素として楽しむことができたが、「あらゆる人に向けてひらく」という観点ではどうだったか。プロジェクトの配布資料には、「作品鑑賞におけるアクセシビリティの試みとして、AIと人間によるパフォーマンスの言語説明や、UDトークや字幕による文字支援を、あえて作品の要素として取り込むことで『身体表現の翻訳』について問います」とある。

実況や言語説明、UDトークなど、観客が作品を多様に楽しめるように工夫されていたことは間違いない。しかし、「作品の要素として取り込む」ということと、作品・公演へのアクセシビリティはレイヤーが違うと感じた。

表現は作品の手法や意図に関わる点を重視するが、アクセシビリティは、誰もが支障なく利用できるかという点を重視する。今回のものは、実験的な試みであるからこそ、企画当初から当事者が関わっていれば、このあたりの切り分けや調整ができ、もっと表現の可能性が拓けたのではないか。

最後に。休憩中、会場に出店していた「Leggy_」(植物販売)と「健ちゃんカレー」の店主が、望まれない形に成長してしまった植物の姿に魅力を感じて、園芸店などで集めているという話をした。今回の作品も、徒長した多肉植物のように、最適解から外れたところにあるAIの魅力を見たような気がする。今後の新たな試みに期待したい。

INFORMATION

contact Gonzo × やんツー『jactynogg zontaanaco ジャkuティー乃愚・存taアkoコ』

日時:2023年5月19日 - 21日
会場:ANOMALY
演出・構成:contact Gonzo、やんツー
出演:contact Gonzo(塚原悠也、三ヶ尻敬悟、松見拓也、NAZE)
テクニカルデザイン:やんツー、稲福孝信(HAUS)
舞台監督:河内崇
実況:仁田晶凱

主催:株式会社precog
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、芸術文化振興基金
協力:ANOMALY、一般財団法人おおさか創造千島財団、株式会社おとも

WRITER PROFILE

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小林桂子 Keiko Kobayashi

比較的新しい芸術表現であるメディアアートを通じ、技術と社会との関係について研究している。展覧会の企画制作や、メディアテクノロジーを理解し体験できるワークショップを展示や教育、医療の現場等で実施してきた。また、テクノロジーを用いた作品鑑賞支援にも取り組んでいる。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒業後、同校研究員、NPO法人デジタルポケット理事、文化庁研究補佐員、日本芸術文化振興会基金部プログラムオフィサー(メディア芸術)を経て、現在日本工業大学先進工学部情報メディア工学科准教授。

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