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EXHIBITION

ロバート・ライマン展 
ファーガス・マカフリー東京 2018.3.24 − 6.2

Written by 河内タカ|2018.4.25

Courtesy of Fergus McCaffrey Tokyo

「何を描くかではなく、どのように描くかが重要」

1950年代中頃から約60年間にも渡って「白」を基調とした作品を制作し続けているのがロバート・ライマンというアーティストだ。戦後の現代アメリカ美術の中でもかなり特異なポジションを築き上げたライマンが、1961年から2003年までに制作した作品(しかもどれもが美術館に所蔵されてもおかしくないレベルのものばかり)によって構成された個展が3月にオープンしたファーガス・マカフリー東京で開催されている。

ロバート・ライマンは1930年にテネシー州メンフィス生まれ、22歳のときに画家としてではなくジャズミュージシャンを志しニューヨークへと移り住んだ。生活のためにニューヨーク近代美術館で警備員の仕事を得たことがきっかけとなり、マーク・ロスコやバーネット・ニューマンやウィレム・デ・クーニングなどの当時最も最先端だった抽象画作品に接する機会を得る。そればかりか同じ警備員として働いていたソル・ルイットとダン・フレヴィンというその後のミニマリズムを牽引していった重要なアーティストたちとも親交を結んだのだった。絵の経験はまったくなかったものの1955年から自我流で作品を作り始め、それから現在にいたるまで白と正方形に限定した表現形態を探求し続けている。

ずいぶん前にアメリカのアート誌に掲載されていたと思うが、ライマンのアトリエにはそれまで描いた作品の写真やポストカードが秩序よく時系列に貼ってある写真が掲載されていた。おそらくそれらを常時見続けることで同じものをリピートすることを避けることに役立て、次作へのインスピレーションやアイデアにつなげていたのだろう。また、ライマンが最初の作品を描き始める前にMoMAの展示を何年も見続けていたということも、自身のキャリアにとって大きな出来事だったのかもしれない。なぜなら彼にとってのアートの主題は「なにを描くか」ということではなく、「どのように描くか」ということが焦点であるだけに、自身や他の作家の作品を洞察するということこそが大きな要素だったに違いない。

ライマンがまだそれほど知名度がなかった頃、「彼の芸術はニヒルなスタンスで描かれていて、それはまったく無意味なものである」と言われていたことがある。白の絵の具でイメージを描かないことに対する無下なコメントだったのだが、そのことはまったく見当違いだったことは明らかだ。ライマンが最初から色と形を制約したことによって、逆に創作における大きな自由をもたらしたわけで、絵の具の痕跡や塗り方や使用する素材のバリエーションといった、まさに作り方や物質的な側面が強調されたことでライマン独自のアートというものが形成されたのだ。

 

Stamp 2002 油彩、キャンバス 35.6 x 35.6 x 3.8 cm
Private Collection, New York © The Artist; Courtesy of Fergus McCaffrey, Tokyo

 

今回展示されている作品も、例えば、ポリエステルにアクリルで描いた《Untitled, 1969》、草間彌生の網状の描き方を思わせる《Stamp, 2002》、今回の展示で最も大きなサイズの《Concert 1, 1986》、他にも《Untitled, 1980/2003》ではスチール板へ取り付けた留め具も作品の一部にしていたりと、白を基調としながらも厚みや塗り重ねが行われていて、実に様々な実験や試みが行われていたりする。さらに、そういった素材や塗り方や展示の仕方を比較してみると、実はどれ一つとして完全に白い作品というのもなく、またあえて塗り残すことでその隙間からキャンバスや厚紙やリネンなどの地が見えるようにしているところにも、彼がいかにプロセスや素材を意識させようとしているか理解できるはずだ。

さて、そんなライマン作品においておそらく個人的に最も重要な要素と思えるのが展示されている空間の彩度かもしれない。というのも、白い壁に白い作品を飾ることを踏まえれば、自然光と人工光の加減でまったく異なる印象を与えてしまうからだ。だからもし時間に余裕がある方は、晴れた日や曇りの日、または朝や午後遅くなど、さまざまな条件の明かりの下でライマンの作品を見ることをお勧めする。しかもアメリカの著名なデザイナーと東京の建築事務所と京都の職人によるコラボレーションで生まれたというこのスペースは、障子によるスクリーンを通した柔らかな自然光が差し込むという繊細な演出がなされていて、見ることによる瞑想の世界へと導いてくれることだろう。

 

現代アメリカ美術を代表するアーティスト、ロバート・ライマンの展覧会がファーガス・マカフリー東京にて開催中。ライマンの長きにわたる創作活動の全容を概観するべく、1961年から2003年までに作成された11の絵画作品が3月24日から5月19日まで展示されている。

INFORMATION

ロバート・ライマン展

2018年3月24日‐6月2日
ファーガス・マカフリー東京

WRITER PROFILE

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河内タカ Taka Kawachi

便利堂 海外事業部ディレクター 高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジへ留学し、卒業後はニューヨークに拠点を移し、現代アートや写真のキュレーションや写真集の編集を数多く手がける。長年に渡った米国生活の後、2011年1月に帰国。2016年には自身の体験を通したアートや写真のことを綴った著書『アートの入り口(アメリカ編)』と続編となる『ヨーロッパ編』を太田出版から刊行。2017年1月より京都便利堂の東京オフィスを拠点にして、写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した活動を行なっている。

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