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EXHIBITION

1940's フジタ・トリビュート展
東京藝術大学陳列館 2018.7.28ー8.15

Written by 藤原えりみ|2018.8.4

小沢剛研究室「また帰って来たペインターF」2018年 撮影:野口翔平

 

1940年代の藤田の活動に焦点を当てた藤田再考の試み。

「誰かが、面白いぞ、と大声をあげながら教室へ入ってきた。今なア、美術館に行って、お賽銭箱に十銭投げるとフジタツグジがお辞儀するぞ。本当だった。…中略…アッツ島玉砕の大画面のわきに筆者の藤田嗣治が直立不動の姿勢でかしこまっていた。」(野見山暁治『四百字のデッサン』 1978年)。
1943年9月、東京府美術館(東京都美術館の前身)開催の国民総力決戦美術展に、藤田が自主的に制作し完成後に陸軍に献納した大作《アッツ島玉砕》を出品したときのエピソードである。前述のテキストは、東京美術学校(東京藝術大学美術学部の前身)に在学中だった野見山暁治氏による藤田に関するエッセイの冒頭部分である。展示会場入口に掲示されたこの一節に導かれて、観客は展示会場に足を踏み入れることになる。

米田知子(左)「道—-サイパン島在留邦人玉砕があった崖に続く道」2003年 / (右)米田知子「藤田嗣治の眼鏡—日本出国を助けたシャーマンGHQ民政官に送った電報を見る」2015年  撮影:野口翔平

 

1階は、《帰って来たペインターF》で藤田をとりあげた小沢剛の研究室による《また帰って来たペインターF》。1941年9月から49年3月に日本を離れるまでの出来事を、軽トラに掲げられた6つのモニターが映し出す。再現映像は当時藤田がいた場所ないしはその近辺で、軽トラの荷台を舞台に撮影された(例えば、仏印巡回日本画展覧会内示会が開催された銀座三越の前、東京府美術館跡や藤田の住居跡や疎開先など)。なかでも笑えるのが(失礼!)、シーン2の「立体版アッツ島玉砕」。紙製のヘルメットと軍服、銃剣で武装した学生たちのまさに「生きた絵画」なのだ。また、日本に別れを告げる藤田が立つパンナム機のタラップは銀色の脚立で、それが荷台の上でグラグラ揺れるありさまは可笑くも危くもあり、アンビバレントな感情をかき立てる。

O JUN「西行や、西行や、旅し衣を縫いし針、いずこへ行っても帰るべし」2018年 撮影:野口翔平

 

階段の踊り場には藤田の裁縫道具を主題とするO.JUN、2階には戦争画に描かれた兵士が見たであろう空を映像化した笹川治子、藤田の《サイパン島同胞臣節を全うす》と《シンガポール最後の日(ブキ・テマ高地)》を黒一色で描く平川恒太、サイパン島のバンザイクリフに続く道と藤田の眼鏡を撮影した米田知子、藤田の《天皇陛下伊勢の神宮に御参拝》の上半分を描いた村田真、小型キャンバスに特製の絵の具で描いた戦死した兵士たちの顔が時の経過と共に浮かび上がってくるという秋本貴透の作品。

(中央)平川恒太「Trinitite –シンガポール最後の日(ブキ・テマ高地)」2018年 / (左右壁面)秋本貴透「KA」1997-98年 撮影:野口翔平

 

《アッツ島玉砕》が75年ぶりに上野で展示されている。上野へのこの大作の帰還により、彼が愛して止まなかった東京美術学校に藤田の霊もまた帰還しているのではないか、そして彼の体験した時代が再び繰り返されるのではないか……。過去と現在への思索を誘う寡黙で密度の高い展覧会である。

INFORMATION

1940's フジタ・トリビュート展

東京藝術大学陳列館
2018.7.28ー8.15

《アッツ島玉砕》と《サイパン島同胞臣節を全うす》が出品される「没後50年 藤田嗣治展」(東京都美術館 7.31ー10.8/京都国立近代美術館 10.19ー12.16)にあわせ、小沢剛(東京藝術大学美術学部先端芸術表現学科)と林洋子(美術史研究家・文化庁芸術文化調査官)、笹川治子(東京藝術大学美術学部先端芸術表現学科研究助手)によって企画された。 展覧会は、中山岩太による藤田の肖像写真や藤田のスケッチ画(個人蔵)、東京藝術大学に君代夫人から寄贈された日記の複写写真、藤田の著書や戦前に刊行された作品集などの資料コーナーと、6人と1ユニットの現代作家作品で構成されている。

WRITER PROFILE

Erimi Fujiwara藤原えりみ
藤原えりみ Erimi Fujihara

美術ジャーナリスト。東京芸術大学大学院美術研究科修了(専攻/美学)。女子美術大学・東京藝術大学・國學院大学非常勤講師。著書『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)。共著に『西洋美術館』『週刊美術館』(小学館)、『ヌードの美術史』(美術出版社)、『現代アートがわかる本』(洋泉社)など。訳書に、C・グルー『都市空間の芸術』(鹿島出版会)、M・ケンプ『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(大月書店)、C・フリーランド『でも、これがアートなの?』(ブリュッケ)など。

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