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東京オペラシティ アートギャラリー 2018.7.14 – 9.24
EXHIBITION

イサム・ノグチ―彫刻から身体・庭へ― 展
東京オペラシティ アートギャラリー 2018.7.14 – 9.24

Written by 河内タカ|2018.8.1

イサム・ノグチ《北京ドローイング(横たわる男)》
1930年、インク、紙
イサム・ノグチ庭園美術館(ニューヨーク)蔵
©The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum, New York / Artist Rights Society [ARS] – JASPAR. Photo by Kevin Noble. 


 
 
日本と西洋の融合を追及し続けたモダニスト
 
 
イサム・ノグチ(1904-1988)は、絵画、彫刻、陶芸、舞台芸術、空間デザイン、建築、造園などの分野において約60年間にも渡り制作を行っていた日系アメリカ人のアーティストだ。ノグチと聞いてすぐに思い浮かぶのは、提灯をヒントにした「あかり」やガラス天板のコーヒーテーブル、石を使った彫刻、あるいは高松の庭園美術館や札幌のモエレ沼公園あたりだろうが、このように彼の活動がかなり広い範囲に及んでいるため、なかなかその全貌が見えにくい側面もあるのも確かだ。

イサム・ノグチのポートレイト
©The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum, New York / Artist Rights Society [ARS] – JASPAR. Photo 
by Jack Mitchell. 


現在、東京オペラシティ アートギャラリーで行われている「イサム・ノグチ ―彫刻から身体・庭へ―」は、身体や人をとりまく環境をテーマにした平面や立体作品とともに、自身の彫刻と大地を結びづける、よりスケールの大きな庭の設計へ取り組んでいった経過を見ることができる。また、日本の自然や風土からインスピレーションを得たどこかユーモラスな造形は、日本にいればアメリカ人、アメリカでは日本人と見られていた彼の境遇ゆえの異文化が混合した要素が随所に感じられる。

墨と筆による初期作品《北京ドローイング》は、流れるようなフォルムですでに人の身体が表現されているが、そこを出発点として造形が段階的に抽象化していく経過を見て取ることができ、さらに、1950年代に日本で制作された《恋人》《二枚の板の愛》《かぶと》《ひまわり》といった陶芸とテラコッタ作品は、日本の自然や伝統文化からインスピレーションを得ることで、古代とモダニズムの要素を混在させたような現代美術を生み出していたりする。

イサム・ノグチ《二枚の板の愛》 
1950年 陶(瀬戸) イサム・ノグチ庭園美術館(ニューヨーク)蔵
©The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum, New York / Artist Rights Society [ARS] – JASPAR. Photo by Kevin Noble.

そして、次のステージとしてノグチが挑んだ石の直彫り作品においては、玄武岩や花崗岩など地球の歴史が凝縮された硬い石が発する「声」を聞きながら制作をしていたというが、それが顕著に表れているのがインド産の花崗岩を使った巨大な恐竜の卵の化石を思わせる最晩年の作品《無題》(1987)であり、ミケランジェロの「石の塊に埋まっている彫刻を取りだす」という有名な言葉を引用するならば、ノグチは大地から掘り出されたものに無理に手を加えることなく、その石がなりたい形を探り当てようとしているように見えてくるのである。

イサム・ノグチ《無題》
1987年 インド産花崗岩 イサム・ノグチ庭園美術館(ニューヨーク)蔵(公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与)
©The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum, New York / Artist Rights Society [ARS] – JASPAR. Photo by Akira Takahashi.

 
親友であり建築家で思想家だったバックミンスター・フラーから、「庭は空間の彫刻」との教えを受けたノグチは、芸術としての彫刻が社会に果たすべき役割とはなんなのかということを自問しながら、かねてから思い描いていたランドスケープや公園の設計へと取り組んでいく。本展は身体と自然からの素材と対話し続けたノグチという孤高のアーティストを知ることができる総括的なものであり、思索のプロセスやその裏に流れる深い哲学とともに、どこか彼の孤独というものが感じられるのである。
 
 

=展覧会情報=
ノグチの没後30年を迎えての巡回展。「身体との対話」「日本との再会」「空間の彫刻—庭へ」「自然との交感—石の彫刻」の四部構成となっていて、初期作品である「北京ドローイング」から始まり、モダンダンスにおける重鎮であったマーサ・グラハムのための舞台装置や日本で制作された陶器による彫刻、光の彫刻「あかり」、子供の遊具の模型や庭園・ランドスケープといった「空間の彫刻」のための模型、アーカイブフォトや撮り下ろしの動画、そして晩年の彫刻作品などを含む約80点の作品でノグチの歩みを紹介する。

INFORMATION

イサム・ノグチ ―彫刻から身体・庭へ― 展

東京オペラシティ アートギャラリー
2018年7月14日―9月24日

WRITER PROFILE

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河内タカ Taka Kawachi

便利堂 海外事業部ディレクター 高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジへ留学し、卒業後はニューヨークに拠点を移し、現代アートや写真のキュレーションや写真集の編集を数多く手がける。長年に渡った米国生活の後、2011年1月に帰国。2016年には自身の体験を通したアートや写真のことを綴った著書『アートの入り口(アメリカ編)』と続編となる『ヨーロッパ編』を太田出版から刊行。2017年1月より京都便利堂の東京オフィスを拠点にして、写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した活動を行なっている。

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