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運慶「大日如来坐像」
半蔵門ミュージアム

Written by 橋本麻里|2018.5.16

大日如来坐像

仏像、というと古寺の残る京都・奈良に気を取られがちだが、実は東京でも名作を拝することのできる施設がいくつかある。その筆頭が東京国立博物館の法隆寺宝物館で、明治11年(1878)に皇室へ献納された、300余件の文化財を展示している。そのクオリティの高さから「東の正倉院」と異名を取るが、飛鳥時代〜奈良時代前期の金銅仏や工芸品がほとんどであるため、正倉院よりさらに一時代古いことになる。実は奈良でも容易には見ることのできないレベルの作品が、東京で常設展示されているのだ。

 

 

さて正倉院といえば東大寺に附属する施設だが、私たちが現在見ることのできるこの寺は、平安時代末期、源平の争乱の中での平重衡による南都焼討の破壊と、そこからの再建によって形づくられた部分が大きい。中でも名高いのは、南都仏師たちを率いて仏像の制作にあたった日本彫刻史上に冠絶する天才、運慶だろう。東大寺南大門の金剛力士像をはじめ、興福寺北円堂の諸像、高野山金剛峯寺の八大童子像、円成寺の大日如来坐像、関東へ目を向ければ願成就院や浄楽寺の諸像と、現在運慶作と確定・推定される仏像は13件35点に上るが、残念ながらこれまで、東京で拝することは叶わなかった。

ところがこの春、仏教美術をテーマとする新しい常設展示施設の一般公開が始まり、ついに都内で、中世を代表する仏師の作品を常時拝観することが可能になった。それが「半蔵門ミュージアム」だ。2004年に初めてその存在が紹介され、08年にクリスティーズのオークションへ出品された、運慶作と推定されるこの「大日如来坐像」について、すわ名作の国外流出か、と話題になったことはご記憶の方も多いだろう。これを真如苑が落札、調査や修復を終えた2015年に重要文化財指定を受け、ついに常設展示で公開の運びとなった。

 

不動明王坐像

 

いわゆる「特別展」では、どこでもおよそ200点前後の作品がこれでもかとばかり並ぶ。だがこちらでは、展示室の中央、独立ケースの中にただ1体収められた大日如来坐像と心ゆくまで向き合うことができる。みっしりと充実した肉厚の体躯、その身体を覆う衣文の曲線、赤子のように柔らかそうな指先や足裏、厳しくも広大な慈悲を感じさせる相貌。ごった返す特別展会場では諦めるしかない細部にいたるまで、じっくり見ることができるのは、作品数を絞り込んでいるがゆえ。といって物足りない思いをすることもない。真如苑が所蔵する仏教美術について、運慶作品だけでなく、ガンダーラ仏伝図の浮き彫りから曼荼羅、経典まで、さまざまな作品が展示されている。また7月29日(日)までは、特集展示として「神護寺経と密教の美術」を開催。こちらは年に数回、テーマを変えて、所蔵作品の紹介を行っていく予定だ。宗教法人が所蔵する文化財であるため、施設そのもののデザインにも、「作品」として展示するというより、信仰の対象として拝する、という気配が濃密に漂っている。美術館であるのと同時に寺でもある、そんな荘厳な空間も含めて堪能したい。

 

INFORMATION

半蔵門ミュージアム

開館時間:10時〜17時30分(入館は17時まで)
休館日:毎週月曜日・火曜日、年末年始(12月29日〜1月4日)
アクセス:東京都千代田区一番町25
入場無料
https://www.hanzomonmuseum.jp

WRITER PROFILE

Mari Hashimoto橋本 麻里
橋本麻里 Mari Hashimoto

日本美術を主な領域とするライター、エディター。公益財団法人永青文庫副館長。日本美術を楽しく、わかりやすく解説。著書に『美術でたどる日本の歴史』全3巻(汐文社)、『京都で日本美術をみる[京都国立博物館]』(集英社クリエイティブ)、『変り兜 戦国のCOOL DESIGN』(新潮社)、共著に『SHUNGART』『原寸美術館 HOKUSAI100!』(共に小学館)、編著に『日本美術全集』第20巻(小学館)。ほか多数。    

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