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PERFORMANCE

木野彩子 レクチャーパフォーマンス『ダンスハ體育ナリ? 其ノ弐 建国体操ヲ踊ッテミタ』
2018.5.12

Written by 西田留美可|2018.6.1

photo by Kazuyuki Matsumoto

 

そもそもダンスは、なぜ体育の授業で教えられているのだろう? そんな疑問から木野彩子のレクチャーパフォーマンスのシリーズは始まった。ダンス作品は芸術ではなく、体育なのだろうか? ダンサーや振付家はアーティストではなくアスリートなのだろうか? たしかに関連した疑問が次々と湧いてくる。

 

第1回目のレクチャーパフォーマンスは、日本のモダンダンスの先駆け石井漠の足跡を追いながら、舞踊教育と体操の近代史をたどった(2016年2月11日14日、BankART studio)。

 

photo by Kazuyuki Matsumoto

 

木野は、振付家・ダンサーとしての活動をしながら、保健体育の教師としてダンスを教えた経験も持つ。そこで生まれた個人的で切実な疑問から出発したからこそ、説得力のあるレクチャーパフォーマンスになった。

 

そして第2弾の今回はさらに先鋭化し、軍事態勢下で体操がどのように利用されてきたかに着目して、体操とダンスとの違いを際立たせた。スポーツの祭典と言われるオリンピックが国策事業であることも浮き彫りにされる。木野はバスガイド姿で、建築中の新国立競技場を指し示しながら、外苑の大まかな歴史を説明して、観客を絵画館の中へ導いた。ここは明治天皇の葬儀が行われた記念の場所。明治神宮外苑という場所は、まさに近代日本と体操とが結びついた舞台なのだ。

 

木野の指導で「建国体操」を観客全員でやってみた。「建国体操」は、皇国2600年を迎えるにあたって作られた体操だという。簡単な動きを方向を変えながら繰り返すもので、誰でも簡単にできる。やってみると、ラジオ体操に似た動きもある。1940年の祝典の際には、この外苑で1000人程で行われたという。さらに、古事記や日本書紀などから想を得たという「日本体操(”やまとばたらき”と読む)」という体操も実演してみせた。シンプルな動きで精神を高揚させる体操のようだ。「くろがねの力」という、さらにマッチョな体操も再現された。

 

photo by Kazuyuki Matsumoto

 

天皇が政治にも軍事にも権限を持っていた時代に、国民の身体と精神の涵養のための管理手段として体操を利用していたことがよくわかる。その一方で、庶民は体操を楽しんでいたのではないかとも思えた。前後左右と上下に直線的な動きを組み合わせた体操は誰でもできる。早くやれば息が切れるほど運動量も多くなるし、体調に合わせてゆっくりとやればその人なりの運動にもなる。日頃アンバランスな使い方をしている体を整えることもできるだろう。オリジナルは掛け声だけだったようだが、音楽に合わせてもできる。集団で行われたが、一人でもできるし、いつでもどこでもできる。そういう手軽さと気楽な楽しさも体操の普及に一役買ったにちがいない。体操は、威勢のよい動きで士気を高め、集団で行うことで団結心を強め、国民を心身ともに支配し管理するために効果的だったと思われる。木野は当時の流行り歌に合わせて余興のように行ったり、ビートの効いた曲でストリートダンス風に行う体操も披露してみせた。平時の健康作りが戦争に向けた軍事訓練にすぐに転換できる可能性があったこともよくわかる。もちろん、それは今にも通じることだ。

 

photo by Kazuyuki Matsumoto

 

1912年、明治天皇の葬儀はここ、神宮外苑で行われた。

1940年、東京オリンピックをここで行うはずだった。代わりに5月12日に、ここで建国体操が行われた。

1943年、ここから学生を戦場に送った。

1964年、東京オリンピックはここで行われ、2020年にも再度ここで行われる予定だ。

オリンピックに向かう今、神宮外苑は国家的な求心力を再び高めるのだろうか。

 

ダンスは戦時中に禁止されるが、体操は重用されていく。管理しやすい体操に反して、ダンスの自由な精神や個人主義的な方向性が嫌われるのだろう。現代は、戦時下とはまた違う形でかつてないほどの管理社会になってきている。ダンスは歴史的な理由で体育の範疇に入れられてきたが、それは管理し制御しやすくする利点もあったかもしれない。ダンスが時代のカナリヤ的な存在であってはならないだろう。

 

photo by Kazuyuki Matsumoto

 

木野は、体操とは異なるダンスの意義として自由を強調する。最後に、ゆるやかで流れるようなダンスを即興で踊った。管理されたダンスではなく、自由な意思と思考の発露であるダンスのために。

 

 

 

 

INFORMATION

木野彩子レクチャーパフォーマンス 「ダンスハ體育ナリ? 其ノ弐 建国体操ヲ踊ッテミタ」

2018年5月12日
明治神宮外苑 聖徳記念絵画館会議室

 本シリーズをDance New Air 2018で上演
 2018年10月6日 - 7日
 ゲーテ・インスティトゥート 東京ドイツ文化センター
 http://dancenewair.tokyo

WRITER PROFILE

Rumika Nishida西田留美可
西田留美可 Rumika Nishida

ダンスジャーナリスト・ダンス批評。ダンス作品や行為がもつ意味に興味を持っている。新聞や雑誌「DANCEART」「シアターアーツ」等で執筆。AICT会員、舞木の会協同代表。共著に『ケベック発パフォーミングアーツの未来形』(三元社)、『ケベックを知るための54章』(明石書店)、『江口隆哉・宮操子 前線舞踊慰問の軌跡』(大野一雄舞踏研究所)。

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