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PERFORMANCE

邦楽2.0研究会
晴れたら空に豆まいて 2018.5.15

Written by 玉塚充|2018.6.17
邦楽2.0研究会 vol.3

伝統をつなぐPassion

さる5月15日、代官山のライブハウスで、ジャパニーズギターの考案者・渥美幸裕が主宰する「邦楽2.0研究会」の新作アルバム・リリース記念のコンサートが開催された。“日本の音楽の伝統と今をギターでつなぐ”というコンセプトのもと、同研究会独自のパフォーマンスが満員の聴衆を魅了した。

柿木原こう(箏)、小濵明人(尺八)、小山豊(津軽三味線)、渥美の熱い想いに賛同するワールドクラスの優れた邦楽演奏家らと共に、各邦楽のレパートリーから様々な名曲をとりあげ、個々の味わいを最大限に引き出すアレンジをもって、記念の一夜を癒しのエネルギーで包み込んだ。

渥美は当プロジェクトの立ち上げにあたり、京都に居を構えることを決意し、築130年の古民家に移住した。自然との調和をはかり、邦楽の原点を身体で覚えることを自らに課し、日本の音楽土壌の中から生まれるギターの音色が“ジャパニースギターの音”であることを、日々追求し続けている。

渥美幸裕

コラボレーションという言葉が定着して久しい。様々な表現ジャンルで表層的なマッチングや、一方のジャンルがテイクオーヴァ―されてしまう現象が目立つ中、渥美による古典と歴史へオマージュを捧げるコラボレーションは、誠に得難いものがある。

例えば地唄「新娘道成寺」では、原曲どおりに箏の演奏が始まると、やがてどこからともなくギターの音が入り、風のように、水のように曲と融合していく。渥美は原曲をまったく損なうことなく、真新しい「道成寺の世界」の創造に成功している。これは、未来の世界に向けられた仕事であることを銘記したい。

このように革新的な表現者は、相当な風圧に耐えているのではないか。今の時代に伝統芸能の外の世界から、伝統を生業とする人々と関係を結び、育むことは、尋常ならざる大仕事だろうと察する。しかし、当の本人は至って軽やかなフットワークで、道中を楽しむ遊び心も忘れない。フジロックなどの音楽フェスに参加したConguero Tres Hoofers(コンゲイロ・トレス・フーファーズ)や、小さい子どもから大人まで楽しめる、ベーシストの中村キタローとのユニット、サイコービジョンズなど、ジャンルをこえた渥美の活動ぶりは、ギターを抱いた渡り鳥ならぬ、ギターを抱いた鵺(ヌエ)である。

2020年の東京オリンピックを控え“レガシー”という言葉をよく耳にするが、芸術文化を通じて吾々日本人は、未来に続く人たちに何を残すことができるのだろうか?京都を拠点に旅するギタリスト渥美幸裕の背中を見ながら、折に触れて「邦楽2.0研究会」の奏でる音色を身にまとい、同時代に切磋琢磨して行きたいと思う。   

INFORMATION

邦楽2.0研究会 vol.3

出演:
小山豊  津軽三味線(小山流三代目、研究会共同主催者)
柿木原こう 箏(生田流箏曲演奏家)
小濱明人  尺八
渥美幸裕 ギター(邦楽2.0、Japanese Guitar)
2018年5月15日
晴れたら空に豆まいて

WRITER PROFILE

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玉塚充 Mitsuru Tamatsuka

玉塚 充(プロデューサー/ディレクター/パフォーマー) 東京生まれ。演劇プロデューサーとして「伝統芸能の若き獅子たち」(企画協力/世界文化社)の企画制作を手がけた後、ニューヨークでショートフィルム「firewater」の演出や、ベッシー賞受賞のコンテンポラリーダンス作品「A Page Out of Order: M」の花道ムーブメントコーチを勤めるなど、国際的なアートコラボレーションを多岐にわたり展開。2013年よりアートユニット“Sagi Tama”、そして2016年より“Tama Pro”を通して己のパフォーマンスと映像を融合して発表、現在に至る。
http://tama-pro.tumblr.com/
http://sagi-tama.sagiyama.com/

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