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アルベール・セラ監督『ルイ14世の死』
2018.5.26-

Written by ヴィヴィアン佐藤|2018.6.15

©CAPRICCI FILMS,ROSA FILMES,ANDERCRAUN FILMS,BOBI LUX 2016

大文字の歴史というものがあるとするならば、我々はどのようにそれらを定義し捉えてきたのだろうか。例えば歴史上の政治家や権力者の死において、現実を超越した不死の象徴的な身体と死にゆく運命にある生身の身体がある。大文字の歴史とはその前者の不死の身体性に依拠するところである。

スペイン・カタルーニャ出身のアルベール・セラは、ある権力者の死を大文字の歴史や神話性に回収するのではなく、いわば後者の身体性、一個人の決してドラマチックではない凡庸で静かに死にゆく姿として収めた。

©CAPRICCI FILMS,ROSA FILMES,ANDERCRAUN FILMS,BOBI LUX 2016

最新作『ルイ14世の死』では、ヌーベルバーグの神話的俳優ジャン=ピエール・レオを起用し、在位期間フランス史上最長の国家元首で、ヴェルサイユ宮殿を建設し、太陽王と呼ばれたルイ14世を演じさせた。それもいわゆる大文字の歴史事実や周知の出来事を一切排し、ルイ14世の傍に暮らしていた側近のサン・シモンの「回想録」とダンジョーのテキストを元に淡々と死が王の身体を征服していくたった二週間を描いて見せた。

セラによれば「神話を凡庸さへ取り戻すこと」。しかし彼の手腕はそこでは終わらず、引き裂かれたふたつの身体性を映画という道具を使って、結果外科手術的な手腕でもう一度縫合してしまったようだ。

©CAPRICCI FILMS,ROSA FILMES,ANDERCRAUN FILMS,BOBI LUX 2016

撮影現場ではシナリオを重視したり、プロフェッショナルな役者による上手な演技は決して尊重されない。むしろ軽蔑される。現場ではモニターは一切なく、その現場で起きる演者たちのインスピレーションの訪れをひたすら待ち続け、起きていることのみを撮影するという。

いわゆる物語性やストーリー展開に重きは置かず、ある意味アンチナラティブな姿勢から出発する創作する態度である。いままでドン・キホーテ、キリスト、三賢人、カサノヴァ、ドラキュラといった周知の人生を持つ人物を描き続け、しかしその誰もが知りうる事実や風景は一切描かずに、あくまでも個人として昆虫観察的な態度で捉えること。それらは紛れもなく「神話を凡庸さへと取り戻す」ことである。『ルイ14世の死』では、身体性を固定される象徴としての「死」を、神話性を獲得し強度を持ち反復される「死」を凡庸に描くことで、歴史という概念を解体し捉え直す試みに思えてならない。素晴らしい怪作である。

©CAPRICCI FILMS,ROSA FILMES,ANDERCRAUN FILMS,BOBI LUX 2016

INFORMATION

『ルイ14世の死』

監督:アルベール・セラ
出演:ジャン=ピエール・レオ、パトリック・ダスマサオ、マルク・スジーニ、イレーヌ・シルヴァーニ
原題:La mort de Louis XIV |2016年|フランス、ポルトガル、スペイン|115分|フランス語
配給:ムヴィオラ
シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

WRITER PROFILE

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ヴィヴィアン佐藤 vivienne sato

美術家、文筆家、非建築家、ドラァグクイーン、プロモーター。ジャンルを横断していき独自の見解でアート、建築、映画、都市を分析。VANTANバンタンデザイン研究所で教鞭をもつ。青森県アートと地域の町興しアドバイザー。尾道観光大使。サンミュージック提携タレント。

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