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マーク・ウェブ監督「さよなら、僕のマンハッタン」 2018.4.14-

Written by 江口研一|2018.5.14

ⓒ 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

 

「あの頃はよかった」、そう感慨深げに呟かれる度に、若い頃から反発を覚えてきた。それなのに、自分もそれなりの年齢になり、その言葉が自分と無縁でないことに気づかされる。つい先日も、最近ニューヨークに行っていないと言う話から、街がずっと危険だった頃について話し始める自分がいた。自分はその時代を知っている。きっとそんな思いがあるのだ。痛い……。そう思いつつも、それが紛れもない自分の印象なのだ。そうなると、人は振り返る生き物だから、と開き直るしかないのか。

 

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『さよなら、僕のマンハッタン』というタイトルが示す通り、そこにはある時代への卒業と共に、懐かしさがすでに漂い始めている。原題はサイモン&ガーファンクルの“The Only Living Boy in New York”。大都会にやって来た小さな自分の孤独が、僕はここにいるよ、と繰り返させる。監督は『500日のサマー』のマーク・ウェブ。主人公トーマスは、出版社を営む父と美術批評家だった母の元、アッパーウェストサイド(セントラルパークの西側を臨む富裕層の住むエリア)の裕福な家庭に育ち、自分はロワーイーストサイドの安アパートに住みながら、未だ自分の道を模索している。精神的に不安定な母が催す会に食事会に出席するため、定期的に実家に帰っているが、何者でもない自分のことなど、誰も意に介さない。テーブルを囲む両親の友人たちは、CBGBの跡地がフランチャイズ店になったこと、街を歩けば時計を脅し取られた、ヒリヒリとしたニューヨークを一様に懐かしむ。高級アパートで行われるそんな戯言をトーマスは毎月聞いている。同時に、トーマスはミミという女の子に首ったけだ。だが一度寝ただけで、彼女とは友達のままの平行線。彼女はバンドマンの彼氏がいない時の寂しさを埋めるようにしか彼と会ってくれない。要は、いい人でしかないということ。そんな中、彼はアル中の謎の隣人と仲良くなり、小説家と思しき彼から人生の酸いも甘いも聞かされる。それに輪をかけ、父が愛人と逢っている現場を偶然見つけてしまう。取り憑かれたように愛人を尾行するも、やがて自分もその魅力にはまり、彼女と寝るようになる。彼の行動が周囲を傷つけることは明らかだ。だが彼には前に進むしかない。

 

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こうしたジャンルの映画を見る時、大きく分ければ、二種類の見方がある。すでに体験したことのある過去として振り返りながら見るか、今を生きながら自分たちに体験し得ないことを、古き良きものとして見せられるか。過去ばかりを懐かしむことへの反発から、今を見たいのだと人は言うかもしれない。でも人は普遍的に過去を振り返るものだということも忘れてはいけない。小学生が平気で、「昔はね」と数年前のことを語るのを聞いても、まわりの子たちには自然に過去を懐かしく振り返る装置のスイッチとなる。となれば、団塊の世代が学生運動を、バブル世代が無限と思えたエネルギーを、次の世代がクラブの梯子を懐かしく振り返るのも致し方ないのかもしれない。体験したか、していないか。その事実があるだけで、そこに選択肢はないのだから。

ただこの監督はそれを今の物語として落とし込むのがうまい。今のニューヨークに生きる不器用な若者が遅いスタートを切る前の悪あがき、そして自然と訪れる決別。進み始めたら止まらない、そんな一瞬のきらめき。それはきっと今を生きる人にしかわからないものだから。

 

 

INFORMATION

『さよなら、僕のマンハッタン』

監督:マーク・ウェブ
出演:カラム・ターナー、ジェフ・ブリッジス、ケイト・ベッキンセール、ピアーズ・ブロスナン他
2017年制作 / 88分
2018.4.14公開
http://www.longride.jp/olb-movie/

WRITER PROFILE

Kenichi Eguchi江口研一
江口研一 Kenichi Eguchi

インディペンデント雑誌の創刊に関わった後、映画評論家としてだけでなく、音楽、アート、デザイン、建築やフードなどカルチャー周辺の事柄について執筆。翻訳家としてはダグラス・クープランドの著書やジュノ・ディアス、パウロ・コエーリョの『ベロニカは死ぬことにした』等の訳書や映画字幕など多岐に及ぶ。food+things (http://kenichieguchi.com) として料理家としても活動。映画サイトOutside In Tokyo(http://www.outsideintokyo.jp)も共同主宰。

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