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未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命 ― 人は明日どう生きるのか
森美術館 2019.11.19 – 2020.3.23

Written by 山峰潤也|2020.7.16

《2025年大阪・関西万博誘致計画案》 2019年 インスタレーション 530×380×360 cm  データ提供:経済産業省 企画協力:PARTY + noiz 展示風景:「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか」森美術館(東京)、2019-2020年 撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館

 

「未来と芸術展」は、13年にわたって森美術館の館長を務めてきた南條史生の「医学と芸術」、「宇宙と芸術」と続いた三部作のフィナーレを飾る展覧会である。ダミアン・ハーストやヤン・ファーブルといった現代美術のスターとともに、レオナルド・ダ・ヴィンチや円山応挙が併置される一方、医療にまつわる器具や資料が並んだ「医学と芸術」は、筆者にとってとりわけ印象的な展覧会だった。それは、美術/非美術、過去/現在を飛び越えながら、人間の営みの中で培われてきた技術や想像力に内包される美しさに注目し、考古学的視点でコレクションされたものたちを、美学的領域へと持ち込んだ手腕が鮮やかだったからである。その手腕は、美術として評価されたものへの賛美だけでなく、独自の視点で文脈化を図っていく創造的なキュレーションを行う上で、非常に重要なものである。

この三部作を通して行われて来た挑戦を踏まえつつ、「未来と芸術展」について考察していきたい。この展覧会は「都市の新たな可能性」「ネオ・メタボリズム建築へ」「ライフスタイルとデザインの革新」「身体の拡張と倫理」「変容する社会と人間」の5つのセクションに分かれ、人工都市からバイオテクノロジー、AI、ロボティクスといった最新技術にまつわるプランや事例、作品が集められた大規模な内容であった。まず、都市にまつわる最初の二章では、新陳代謝を繰り返す生命に見立てた60年代日本の建築運動「メタボリズム」を取り上げながら、植物や微生物、自然エネルギーを活用し、環境そのものを構築する人工都市などが提案されている。また、その後の章では、AI技術が浸透した社会に対する倫理的問いや、バイオテクノロジーの発達状況を指し示す作品に加え、AIや画像認識、ロボティクスなどを用いたサービスや、最新の義足などの紹介もあった。ここで示された事例は、実社会で議論されるサービスや科学的実験、都市デザインに類するものも多くあり、芸術の範囲を拡張しながら、未来への議論を深めようとする意図が感じられる展覧会であった。しかし筆者としては、ここで使われる「未来」という言葉にも、「芸術」という言葉にもいささか違和感を覚えた。

 

エコ・ロジック・スタジオ 《H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g》2019年 PETG、バイオジェル、ユーグレナ  317×270×114 cm  展示風景:「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか」森美術館(東京)、2019-2020年 撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館

 

まず、「未来」という言葉だが、端的にこれから訪れる時間を指す時制の一つである。しかし、「未来と芸術展」におけるこの言葉には、それ以上の何かがまとわりついているような印象を受けた。おそらくそれは、技術が発達した先に訪れる幸福を謳い文句にしてきた資本主義的進歩主義が作り出したユートピアとしての「未来」である。言い換えれば、人が作り出す技術は、人類の未来を切り開き、新しい時代を作るのである、という夢、あるいは号令、である。大阪万博の「人類の進歩と調和」に代表されるようなスローガンが、希望を与え、資本を動かし、人々を駆動させる。だが時制の概念に立ち戻れば、過去は過ぎ去ったものであり、現在は眼前に広がり、未来は未知である。

しかしそれ故に、未来に対する不安は常に存在する。だから、その未知なる時代が明るく希望に満ちたものであって欲しいという願いは潜在的に存在しうる。そして、その願いを叶える存在としての技術、という言説が成立してきた。20世紀から現在に至るまで、使い古されてもなお「技術が作り出す未来」という文言を掲げる技術的進歩主義は、膨張し続けることを宿命づけられた資本主義の共犯者として、時代の先鋒として立ち続けたのである。だが、芸術の立場から未来を語るのであればせめて、政治的・経済的目的によって作られたその幻想を引き剥がした上で、この企画を始めなければならなかったのではないか。

 

ネリ・オックスマン&ザ・メディエイテッド・マター・グループ 《江戸のエデン》2019年  ヒノキ、3Dプリントされた樹脂、光ファイバー  200×400×400cm  所蔵:森ビル株式会社 展示風景:「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか」森美術館(東京)、2019-2020年 撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館

 

この展覧会に展示されているものの多くは、技術が生み出す社会をアイロニカルに批評するものか、新しい種類の技術がこれまでにはない未来を作り出すか、という大きくは二つの方向に分けられる。だが、いずれにしても「人間が作り出す技術が生み出す未来」を前提としたものである。しかし、技術が及ばない奥深い自然にも、当然ながら未来は存在する。加えて言うならば、何ら技術的な発達がなくとも未来は訪れる。こうした可能性が多くの人にとって、意識されないできた、ということが、この展覧会に早期終了を迫ったCOVID-19によって、広く理解されることとなってしまったのは皮肉なことである。

このウィルスの存在によって、経済活動の停止が余儀なくされ、人々は身をひそめるしかなくなった。人新世という言葉が指し示すように、人間を中心とした時代区分にいるという自負を持つ人類に対して、この地上に生きる無数の生命の種族における一つにしかすぎないという事実を突きつけられる結果となったのである。そして、この未曾有の事態を拡張させたのは、人類が躍起になって発達させてきた移動技術である。技術が触媒となって拡散した、ということも、もはや自明の事態となっている。

 

Nissan Intelligent Mobility×Artプロジェクト 《Invisible to Visible ~未来の自動運転~》2019年 インスタレーション サイズ可変 展示風景:「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか」森美術館(東京)、2019-2020年 撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館

 

そして、人間が活動を抑えることにより、環境汚染が回復していったという事実があらわになった。ウィルスが、人間が作り出した技術によって運ばれ、その勢力を拡大し、経済活動が縮小する一方で、自然が本来の形を取り戻し始めていったということは、まるで地球からの勧告のようでさえある。しかし、人類が近代化の中で構築してきた資本主義は、借り入れから新しいプロダクトを生み、元金以上の資金を回収する。つまり、空手形を打ち、それを回収し続けることによって成立してきた。前進するしかできず、立ち止まることもできない暴走機関のような性質を持っている。その原動力となってきたものが技術である以上、資本主義と技術的進歩は分かち難く結びついている。だが、技術=未来ではない。既存の資本主義も絶対ではない。そして、芸術は経済合理主義から逸脱した美意識と哲学、思想を育んで来たという側面がある。その、芸術というフィールドから未来を問うのであれば、資本主義と技術的進歩主義によって駆動されない未来への想像力が必要だったのではないだろうか。

 

アウチ 《データモノリス》 2018/2019年  ハイビジョン・ビデオ・インスタレーション サイズ可変、12分30秒 展示風景:「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか」森美術館(東京)、2019-2020年 撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館

 

誰にも予想できない現実が起こってしまった段階で、過去の想像力に対してこのように述べることはフェアではない。しかし、現在の状況をふまえずに、未来について言及することはもはやできないのだ。

人々を集め、過密の状態を作りながら、その権威性を擁立した近代都市への疑義がかつてないほどに噴出している。これまでも度々、ポストモダンや脱中心主義などの言葉で中央集権への疑義は示されてきた。しかし、このコロナ渦という時代のターニングポイントの当事者となった人たちの多くは、未来への新しい舵とりが必要不可欠だと感じているのではないだろうか。そういった意味では、過去の想像力からの解放もまた必要不可欠なのではないかと思われる。

INFORMATION

未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命 ― 人は明日どう生きるのか

会期:2019.11.19 - 2020.3.23
主催: 森美術館、NHK
企画: 南條史生( 森美術館前館長)、近藤健一( 森美術館キュレーター)、德山拓一( 森美術館アソシエイト・キュレーター)、
オナー・ハガー(アートサイエンス・ミュージアム館長、シンガポール)
企画協力:SymbioticA( 西オーストラリア大学)、一般財団法人 森記念財団

WRITER PROFILE

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山峰潤也 Junya Yamamine

キュレーター/株式会社NYAW代表取締役/一般財団法人東京アートアクセラレーション共同代表
東京都写真美術館、金沢21世紀美術館、水戸芸術館現代美術センターにて、キュレーターとして勤務したのちANB Tokyoの企画運営に携わる。主な展覧会に、「ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて」、「霧の抵抗 中谷芙二子」(水戸芸術館)や「The world began without the human race and it will end without it.」(国立台湾美術館)など。avexが主催するアートフェスティバル「Meet Your Art Festival “NEW SOIL”」や文化庁文化経済戦略推進事業など文化/アート関連事業の企画やコンサルのほか、雑誌やテレビなどのアート番組や特集の監修なども行う。また執筆、講演、審査委員など多数。2015年度文科省学芸員等在外派遣研修員、早稲田大学/東京工芸大学非常勤講師。

Photo:松岡一哲

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