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EXHIBITION

変容のありか 流れる時間の捉え方
藤沢市アートスペース 2020.2.9 – 3.22

Written by 澤 隆志|2020.4.3

《60×100(振り向き振り返る少女)》(部分) © cobird

 

この文章を書いている2020年3月現在、新型コロナウイルスの封じ込めは実現していない。美術館も映画館もライブイベントも中止、延期が相次いでいる。今回取り上げる「変容のありか  流れる時間の捉え方」も同様に会期の半分で展示が閉じた。コラージュ、アッサンブラージュ、リミックス作家の展示が、突然変異(ある種のリミックス)ウイルスの猛威で中止になるとはあまりにも皮肉だ。

 

《ポジション #セーリング》  © Junya Kataoka + Rie Iwatake

 

片岡純也+岩竹理恵は2人ユニットの作家で、基本、片岡がキネティックな立体を、岩竹が平面のコラージュを制作し、題材がゆるやかに響き合うような空間構成を行う。「trans #円と運動」で見られるような切手と消印の細密なコラージュで図案の出会いに物語を生み、「揺れる黒板、転がるチョーク」のような日用品にモーターで無限軌道と偶然性を与え、物語を生むのが彼らの典型的な手法だ。今回、会場の藤沢市は五輪のセーリング開催予定地ということで、切手はマリンスポーツが採用され、窓から一望できる市街を借景とした。また、太陽電池や磁石を仕込むことで、パワーソースを会場の外から拝借した“借力”が新展開といえる。コロナ禍で国境の閉鎖、物流、人材の分断など “global”に綻びが出ている中、作品は無観客でも動き続けているという。地磁気や太陽光線は特定の国威発揚や経済効果に与しない。作家の意図を超えてglobe(地球)コンシャスな作品となった。例えば、地軸の傾きから春、春から躁を導き出した志賀理江子(*1) 、太陽光が名画を眩ませる瞬間を捉えた小野祐次 (*2) のような。

《0 から1 へのアナログ変換》© Junya Kataoka + Rie Iwatake

 

室内の中央には暗室の小部屋が建てられ、レンズで拡大された切手のコラージュ(「サーキュレーション」)と、“カメラは発明ではなく、自然現象である。” (*3) とホックニーをも夢中にさせたピンホールカメラで描かれた“バイナリー”ドット絵のユーモアが鮮やかであった。(「0 から1 へのアナログ変換」)

 

cobird 展示風景

 

cobirdは既存の印刷されたイメージを縦横のスリットに分解、映画の数コマなど差分のある情報を、見開きではなく織り込む事によってコラージュを形成している。組写真とも、ジョナス・メカスのFrozen Film Frames(映画のコマのダイレクトプリント *4)とも違う奇妙な時間体験に我々を誘う。振り返るジュディ・ガーランド(「 60×100(振り向き振り返る少女)」)、ボクサーのパンチ(「 それぞれの3分」)、高雄の今昔(「 時と場合(Kaohsiung or Takao)」)など素材はさまざまだが、スリット単位で再構成された全体像は、筆者には動画体験の2Dシミュレーションとも解釈できた。フィルム映画は1秒間に2回シャッターが切られていて、2時間の映画なら1時間は暗闇を見ていることになる。ビデオ画像の転送はインターレース方式と呼ばれ、横短冊60本に分解し、奇数偶数ペア30本を2回飛ばして1つの画面を作ることで動きをスムーズに再生する。情報を制限することで静止画は動画となる。hiphopに造詣の深い作家にとっては、ブレイクビーツやダブの感覚とのことではあるが。

 

《それぞれの3分》《時と場合》© cobird

 

展覧会のタイトルは「変容のありか 流れる時間の捉え方」である。片岡+岩竹は時計の長針、短針、秒針の組み合わせでリサジュー図形 (*5) を生成し続ける「3つの時計の針によるドローイング」、cobirdはサイアノタイプ(日光写真)の焼付きの変化と時計のミクストメディア「記憶か記憶(Record or Memory)」がある。

有事なので国家規模の団結が是とされている。一方、作家は日常と異なる時間感覚をビジュアライズしている。一致団結と多様性の尊重はセットでとらえにくいものだ。日常の変容。作品が生み出す変容。会期終了までその変容が見届けられなかったことは返すがえすも残念であった。

 

《3つの時計の針によるドローイング》© Junya Kataoka + Rie Iwatake

 

 

 注:

(*1) 「ヒューマン・スプリング」東京都写真美術館

(*2) 「Vice Versa – Les Tableaux 逆も真なり – 絵画頌」Shogo Arts

(*3) デイヴィッド・ホックニー「Secret Knowledge」

(*4) Frozen Film Frames 

(*5) 参照:John Whitney 

INFORMATION

変容のありか 流れる時間の捉え方

会期:2020年2月9日〜3月22日(3月6日に中止)
会場:藤沢市アートスペース

WRITER PROFILE

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澤 隆志 Takashi Sawa

イメージフォーラムのフェスティバルディレクター(2001-10)を経て現在はフリーランスのキュレーター。
あいちトリエンナーレ(2013)、東京都庭園美術館(2015,16) 、青森県立美術館(2017,18)などでキュレーション。また、「Track Top Tokyo」 (2016) 、「都市防災ブートキャンプ」(2017)、「めぐりあいJAXA」(2016-18)など都内の隠れたセクシー物件でイベントを行っています。

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