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EXHIBITION

YAU TEN
YAU STUDIOほか
2022.5.20-27

Written by 高橋彩子|2022.8.16

撮影:吉田夏瑛

有楽町界隈でのアートによる創造的なまちづくり=アートアーバニズムを目指して2022年2月にスタートした「YAU」。その成果展「YAUTEN」が5月20 日~27 日に行われた。

アートを育む場として

様々な企画が展開するYAU の柱の一つは、若手を中心とするアーティストの作品群の展示(EXHIBITION)。いずれも有楽町の街を創作の場あるいはコンセプトにしたアート作品となっている。
例えばSO×丸尾隆一《Maruo:Landscape for 2 buildings at Yurakucho》《SO:Urbanism Ambience》は、YAU STUDIO のある有楽町ビルと新有楽町ビルという、2023年に取り壊されることが決まっている2棟のビルの間の“視点”に着目。有楽町の様々な音と共に、有楽町ビルの窓に貼られたスクリーンにビルの内外の様子を映し出した。

一方、小山泰介《Traces》は、新有楽町ビルと新国際ビルの屋上でヘドロや土、落ち葉などを採集し、その痕跡を鮮やかな青色でYAU STUDIO の窓に装着した。どちらも、窓から見える有楽町の景色に新たな視点をもたらしてみせた。
新有楽町ビル地下の理容室跡もユニークなアートスペースとなった。伊藤颯は建物に化石が眠る大理石が使われていることにインスパイアされ、散髪椅子や鏡が残る部屋の天井に骨型のクッションが浮かぶ《すかるぺちゃ~》を発表。鈴木冬生は蜘蛛や地衣類をモチーフに作成した《cobweb》を空間の最奥に置き、ともすれば無機質にも感じるほど整った都会の町並みの地下で、密やかに、そして脈々と息づく有機的なイメージを紡いだ。

一方で、創作や展示にとどまらず、多角的にアートを考え、推進する試みも、YAU の特長だ。若手アーティストが直面する諸問題について考える相談員のネットワークSNZ(シノバス)は、「YAU COUNTER」として国際ビル地下1 階に相談所を開設。山川陸、長谷川新、森純平、中島りか、田村かのこ、西原珉、宮路 雅行、うらあやか、猫のやりかた等、ヴァラエティに富む相談員が、当番制で対応した。居酒屋だったスペースには相談者以外の人間が座る場所もあり、オープンな雰囲気で相談がなされていく。相談者はアーティストに限定されず、筆者が訪れた時には20 代の女性が、アーティスト支援の場作りや可能性について考えや迷いを話し、長谷川から様々な助言や情報を得ていた。

撮影:加藤甫

生身の身体が躍動したスタジオ公演

YAU はまた、演劇やダンスなどの稽古場やアートマネージャーのコワーキングスペースとしても機能していた。YAU TEN では、その運営や新作パフォーマンスのプロデュースに取り組んできたアートマネージャーのコレクティブ「bench」により、倉田翠の演出・構成作品が上演された。また、YAU の稽古場を使用したアーティストから、チーム・チープロ、シラカンが、それぞれ公演を行った。そのうち、倉田翠作品、チーム・チープロ作品を観た。
倉田翠の『今ここから、あなたのことが見える / 見えない』は、大手町・丸の内・有楽町エリアで働く人々にインタビューし、「大手町・丸の内・有楽町で働く人たちとパフォーマンス? ダンス? 演劇?をつくるためのワークショップ」を行って作られたパフォーマンス。出演者は、有楽町界隈で働くワークショップ参加者。弁護士事務所の秘書、不動産会社の人事部、機関投資家、旅行代理店など多様な職種の人々が、自らの来歴や日々の生活の中での思い・思い出などを語り、パフォーマンスしていく。会場となった新国際ビル2階の空きテナントは、天井が低く柱で全貌が見えない、パフォーマンス空間としては特殊な場だったが、技術を持ったプロとは異なる熱量や不安定さや輝きが、タイトル通り“見えたり見えなかったり”するさまは、この街を行き交う人々との束の間の出会いには実にふさわしい。有楽町で働くことの特長を押し出さず、類型化せず、ただそこに生きる人の“今”にフォーカスを当てて、それぞれの感情を引き出し空間に提示する倉田の力量が光った。
チーム・チープロ『皇居ランニングマン』はもともと2019 年に発表したレクチャーパフォーマンス的作品。今回は、題材である皇居前広場から至近の有楽町という場を得ての再演となった。戦前・戦中には大日本帝国の国威発揚の場、関東大震災時には避難場所、戦後は進駐軍のパレードの舞台ともなった皇居前広場。戦後初の中央メーデーが行われて以来、毎年メーデー会場であったにも関わらず、51 年に禁止され、“皇居前広場事件”と称される訴訟にも発展した。今は平穏な景色が広がるが、ランニングが禁じられているこの広場でランニングをしようとするダンサーの試みが、ヒップホップダンスのステップ“ランニングマン”に重ねられ、ボードリヤールなどの引用と共に、逃走・闘争の形が示されるさまは圧倒的。この公演の一ヶ月前、日本の演劇集団Pカンパニーが香港の劇作家・荘梅岩の戯曲『5月35日』を松本祐子演出で上演した。かつて天安門事件で息子を亡くした老夫婦が、集会の禁じられている天安門広場で追悼のろうそくを灯そうとするという物語だが、今、この戯曲は香港で上演できず、日本公演にあたって作家がコメントを寄せることすら叶わなかったという。何もなかったかのように整然とした姿を見せる、天安門広場と皇居前広場。その下に眠る歴史をパフォーミングアーツの力で掘り起こす試みは、YAU のアートアーバニズムのスピリットとも通じるものであり、『皇居ランニングマン』の再演は極めて意義深いものだったと言える。

アートアーバニズムとしての有楽町の可能性

有楽町のアートアーバニズムの動きはYAU以前から始まっていた。アーティスト・藤元明のディレクション下、空き物件などの空間を活用するアートプロジェクト「ソノ アイダ」は、2020 年に3カ月間、三菱地所の新有楽町ビル1階の空き店舗での活動する「ソノ アイダ #有楽町」を展開。2021年末からは株式会社アトムの主催のもと、新有楽町ビルの空き店舗にて「ソノ アイダ#新有楽町」をスタートした。その中の企画「ARTISTS STUDIO」はアーティストが創作環境をそこに移し、約一ヶ月半、創作、展示、作品販売を行うというもの。YAU TEN期間には藤崎了一とHogalee が活動した。

藤元は、今回のYAU への参加の意義を以下のように語る。
「同じエリアで制作状況が重なることで、アーティスト同士の道具の貸し借りや手伝いを含め、相互の生の活動を知る機会となりました。『ソノ アイダ#新有楽町』ではYAU 期間中「ソノ アイダ」を知らない方々に多く来て頂き、都心でのアート活動の面白さを体験頂けたと思います」
藤元が考える、有楽町という都心(有楽町)でのアートの可能性とは、こうだ。
「有楽町含め三菱地所大丸有エリアは、月~金はほとんどが就労者ですが、土日は街歩きの人が多くいます。オフィスとエンタメ二つの日常があり、有楽町駅側の歓楽街へとマダラ模様に混ざっていきます。特徴は開発される前のオフィス街であり、古さ(昭和)と新しさ(令和)が混ざり、複雑ゆえに空間的にも時間的にも隙があることが最大の可能性です。アーティストのいるオルタナティブな日常を混ぜ込んでも、その違和感が効果的に機能する珍しい街だと思います。基本的にアーティストは賃料の安い郊外で活動していますが、三菱地所がエリア単位で建物・テナントを管理し、有楽町の開発というタイミングが、賃料回収ではない価値観を都心に存在されられる稀有な状況です。今回『ソノ アイダ#新有楽町』活動全般を主催の株式会社アトムに支援頂き、アートによる様々な企画を行っていくなかで、作品購入だけではない企業としての新しいアート支援活動の形が見え始めています。アーティストは状況が揃えば、時給換算ではないそれぞれ高いパフォーマンスをしてくれるので、都心でのアート活動は郊外よりも効果的に機能します。三菱地所、株式会社アトム、アーティストそれぞれ持ち寄り、これまでの都心の景色をアップデートする挑戦は、社会的に意義があり、既視感のある東京ひいては日本の街の雰囲気を変えるきっかけになると信じて活動しています」
「ソノ アイダ #新有楽町」は2023 年まで継続する。5月27 日に幕を閉じたYAU TEN の試みも、多様な形で街に、人に残り、新たな芽吹きのもととなっていくに違いない。

INFORMATION

YAU TEN

日時:2022年5月20日-27日
会場:
・YAU STUDIO(千代田区有楽町1-10-1有楽町ビル10F)
・YAU COUNTER(千代田区丸の内3-1-1 国際ビル地下1F)
・ソノ アイダ#新有楽町ビル(千代田区有楽町1丁目12-1 新有楽町ビル 1F)
・新国際ビル(千代田区丸の内3-4-1)ほか
主催:
「有楽町アートアーバニズムプログラム」実行委員会(一般社団法人 大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会、NPO法人大丸有エリアマネジメント協会)

WRITER PROFILE

高橋彩子 Ayako Takahashi

早稲田大学大学院文学研究科(演劇学・舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ、ダンス、ミュージカル、オペラなどを中心に執筆。現在、Webマガジン『ONTOMO』で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」(https://ontomo-mag.com/tag/mimi-kara-miru/)、バレエ雑誌『SWAN MAGAZINE』で「バレエファンに贈る オペラ万華鏡」、バレエ専門ウェブメディア『バレエチャンネル』で「ステージ交差点」(https://balletchannel.jp/genre/ayako-takahashi)を連載中。第10回日本ダンス評論賞第一席。

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