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OUT AND ABOUT

Reborn-Art Festival 2021-22
2021.8.11 – 9.26
宮城県 石巻市街地、牡鹿半島、女川駅周辺

Written by ヴィヴィアン佐藤|2021.9.22

MES《サイ》 Photo by Taichi Saito

東日本大震災が発生してちょうど10年となる節目である今年、被災地の石巻を中心に「アート」と「音楽」と「食」の総合芸術祭、Reborn-Art Festivalが3回目を迎えた。今回は夏会期(8/11―9/26)と2022年の春の二期に分割しての開催となる。夏会期はキュレーターとして窪田研二が担当し、二期を通して「利他と流動性」というテーマが掲げられた。

 

HouxoQue《泉》 Photo by Taichi Saito

西尾康之《磔刑》 Photo by Takehiro Goto

バーバラ・ヴァーグナー&ベンジャミン・デ・ブルカ《Swinguerra》 Photo by Takehiro Goto

会場は石巻市街地、新しく加わった女川を含め牡鹿半島へと連なる5エリアからなるが、石巻市街地エリアでは地元になじみ深いいくつかの施設が展示会場となった。

ドミニク・アングルの『泉』から着想を得たというHouxoQue。循環するメディウムとしての水は無垢性と同時に過酷な当地の水の記憶を彷彿させた。MESによる作品は湯と身体血流の温度の差異を視覚化し、その漏れ出す吐息たちを立体的に受け止める。札幌在住でアイヌとして、そして日本人として生きているマユンキキによる、アイヌ語で「生きる、死なずにすむ、命を取りとめる、生き返る」の意味を持つ「SIKNU」という展示で見せた母親との対話作品は、アイヌとして生きてきた母親や先祖の生き様を自身の身体の中に蘇生させる。

9歳の時に両脚を切断した片山真理によるセルフポートレート作品群は、本人の特異な身体を露わにするだけではなく、義足や自作のオブジェとの戯れは、人間が誰しも持つ身体への不可思議さと同時に、客体化や遊戯性、物語性を醸し出す。そして、西尾康之の陰刻鋳造による指の痕跡のみで作られた巨大な、キリストを思わせる「磔刑」作品は、特定の宗教観を超えて人間の「信じる」という行為や、そこに費やされた膨大な時間や手仕事の痕跡とともに、裸で過ごす薄暗いサウナ空間という独特な空間との共振が見る者を圧倒する。

コロナ禍で海外からの参加が困難な状況下、ブラジルのバーバラ・ヴァーグナー&ベンジャミン・デ・ブルカによる「Swinguerra」は、人種/性別/経済格差をテーマとした群像映像作品であり、夏季休業中のスケートリンクでインスタレーション上映された。移民や海外労働者、もしくは地方都市のこのような施設近辺で新たなアイデンティティを持った若者たちがたむろしている様子はよく目にする光景だ。

雨宮庸介《石巻13分》 Photo by Takehiro Goto

地形的な意味で、石巻が本来持つ土地の特色を最大限に利用した作品といえば、雨宮庸介の「石巻13分」が挙げられる。ひときわ小高い日和山公園の「旧レストランかしま」内外を借景とした演劇的インスタレーションに使用される映像には、現在雨宮が住むドイツのベルリンと作品展示をする石巻、東日本大震災が起こる前とその後、コロナ禍前とその後の現実と虚構、それら対立するもの、そして、雨宮の母親の実際の筆跡から書き起こして制作した文字で自身の掌に「石巻」というタトゥーを彫る模様が収められていく。そこでは独自の時間や記憶の遠近法が生まれ、身体にタトゥーによって出来事を標す行為は記憶の文鎮となる。そこに現在の海岸線の工事が進められた石巻の夏の日和山からの風景とが重なり、感傷的で秀逸な作品となっている。

加藤翼《Surface》 Photo by Takehiro Goto

オノ・ヨーコ《Wish Tree》

そして、坂茂による新しい駅舎や防潮堤をつくらない街づくりとして話題となった女川エリア。駅前には会田誠の彫刻「考えない人」、海辺にはオノ・ヨーコの作品「Wish Tree」が設置された。また巨大構造物を大勢で引き起こしたり倒したりする過程の作品を発表している加藤翼は、津波によりいまだ海中に沈んでいる自動車を地元の住民約100人と引き上げた作品「Surface」で、震災の傷跡が消えつつある女川において、災害の記憶そのものを引き上げるような作品となっている。

篠田太郎《幼年期の終わりに》

SWOON《CICADA》 Photo by Takehiro Goto

旧荻浜小学校の桃浦エリアでは、森本千絵×WOW×小林武史による巨大な音と光によって身体が包まれる巨大なインスタレーション作品「forgive」。北米マトール川と女川に共通する生物である銀鮭とその土地に住む人々との古来からの関係性を丁寧に収めた映像物語をインスタレーションで発表した岩根愛の「Coho Come Home」。民俗学的なフィールドワークによる手法で制作した作品は重層的な展示によりふたつの川が海により繋がっていることを意識させる。

ラバーによる巨大な明滅する火の蛇のインスタレーション「HISSS」を展示したサエボーグは独自のモダンプリミティブなアプローチによって新たな神話を創造した。アーサー・C・クラークからの引用「幼年期の終わりに」を題名とし、復興への疑問を俯瞰的な視点から考え巨大なバルーン作品を制作した篠田太郎。呪術的なフェミニズムの要素から神話や女性性をグロテスクで美しい実写アニメで制作したSWOONの「CICADA」。そして、牡鹿半島の海の様々な表情を映し出した夏井瞬の「呼吸する波」は、海が呼吸し鼓動している様、古代からのその土地と海との共存関係を炙り出す。

小林万里子《終わりのないよろこび》 Photo by Takehiro Goto

狩野哲郎《21の特別な要求》 Photo by Taichi Saito

 

片山真理《on the way home #5》ほか Photo by Takehiro Goto

開幕の翌日、荻浜エリアで展示された片山真理の、2016年香川県直島で制作された写真シリーズの一点が、地元住民から「津波被害を彷彿させる」という意見が出たことで、アーティストとの協議の結果、鑑賞者の感情に配慮して撤去に至った。義足で生活している自身の身体を模した手縫いのオブジェ群がポートレートに取り込まれたもので、他者や社会との関わりを表現した作品だった。すべての鑑賞者や地元住民の全員が心地良い最大公約数の作品を求めることだけが、芸術祭の目的ではないことは明らかだ。税金や公共の場で開催され発表される作品の在り方、作品やアーティストの尊厳がもう一度問われるべきではないだろうか。オリンピックの開会式でも記憶に新しい辞任騒動にも言えるが、一般からの意見や非難をどこまで受け入れるか、主催者や選出した側がアーティストをどれだけ守れるかが浮き彫りになったとも言える。

髙橋匡太《光の贈り物》 Photo by Taichi Saito

 

窪田研二による初キュレーションは、いままでのReborn-Art Festivalの色合いとは明らかに異なり、新鮮な印象を放ち、芸術祭としてもマンネリズムに陥らず変化を求め、活性化を目指す姿勢や本来石巻という街の持つ流通や交易という流動的な性質、石巻の日常社会が持つ身体的な記憶が残る固有的な場所性に着目した姿勢が垣間見られた。

特にそれらが感じられた理由としては、石巻市内の展示場所は単なる空き家や商店跡といった展示スペースの確保という目的だけの場所ではなく、例えば震災後ボランティアとの交流スペース(千人風呂)、元銭湯、サウナ施設跡、スケート場や旧展望レストランなどを展示空間として使用されたことが挙げられる。かつてそこに住んでいた住民の日常の身体性に深く関わる施設、身体を使用した娯楽性の高いスポーツ場、デート観光スポットなどが選出された。そこは日常の身体性の痕跡が今なお強烈に残された場所で、かつての身体とその空間との過去の関係性が、展示されたアート作品を媒体として、そのまま我々現代の鑑賞者とその空間の現在の関係性に変奏されており、過去と現在の在り方があたかも鏡像関係のようになっている。

それは我々テンポラリーに訪れた鑑賞者でさえ、各々の身体を通して石巻の過去と現在の街の在り方に関与していることを意識させる。いっときの旅人さえもその街を形成しているファクターとして存在しているし、他人の街を覗く他者ではなく、自分ごととして感じることが出来る仕組みとなっている。
そして、同じ空間における、かつての身体と今の身体が対比構造になって共存はしているものの、街は現在そこに住まう者や関係する人々によって変化し呼吸をしていること、その線形的で連続的な時間軸が過去と現在とを結び、それが未来へと繋がっていることも示唆された。

INFORMATION

Reborn-Art Festival 2021-22

テーマ:利他と流動性
会期:夏会期 2021.8.11 - 9.26
会場:宮城県 石巻市街地、牡鹿半島(桃浦、荻浜、小積、鮎川)、女川駅周辺
主催:Reborn-Art Festival 実行委員会、一般社団法人APバンク

WRITER PROFILE

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ヴィヴィアン佐藤 vivienne sato

美術家、文筆家、非建築家、ドラァグクイーン、プロモーター。ジャンルを横断していき独自の見解でアート、建築、映画、都市を分析。VANTANバンタンデザイン研究所で教鞭をもつ。青森県アートと地域の町興しアドバイザー。尾道観光大使。サンミュージック提携タレント。

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