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PERFORMANCE

千駄木Bar Isshee
2018年6月5日
Tumo:竹下勇馬, 石原雄治, guest: 高岡大祐

Written by dj sniff|2018.6.26

千駄木のBar Issheeは東京の即興音楽の磁場の一つである。ここで毎回違う音楽家を迎えて演奏するシリーズを隔週ペースで2年近く続けている、ドラムの石原雄治とベースの竹下勇馬からなるTUMO。今回のゲストはチューバ奏者の高岡大祐。飾り気がまるで無い店内で、リラックスした雰囲気でコンサートが始まった。ドラムに加え様々な金物を駆使してリズムとテクスチャーの間を行き来する石原、自らの息を媒介に口、チューバ、マイクの関係性を変化させ多様な音を紡いでゆく高岡、そして基板やセンサーがむき出しのまま取り付けてあるサイボーグのような見た目のベースを弾き、自作のスピーカーが高音を発しながら回転する竹下。音楽的な対話と交渉が繰り返されながら音が展開してゆくハイレベルな演奏だった。しかしやはり特筆すべきは、1970年代から続くゴードン・ムンマのAmbivex注1やニック・コリンズのTrombonePropelled Electronics注2といった、既存の楽器を拡張する電子音楽の系譜の中で最大の難題である、他の奏者との即興を流暢にこなす竹下だった。彼の楽器は、ガジェット的な嗜好以上に不測の自体が起こり得る現場での経験を反映させて形作られた、独特の音楽的実践を可能にするものへと昇華されていた。

それはBar Issheeが、自作楽器に限らず全ての表現者が必要とする適度に開かれ、適度に閉ざされた「安全な実験の場」を提供していることの実証でもある。 ここのように規模が小さくとも間口を広く構え、実験性に富んだ場所が、オランダでは文化助成の削減により数十年続いていたものが消え、香港では地価の高騰や政治性を理由に潰されるのを筆者は目の当たりにしてきた。それらの都市では次第に文化の土壌が瘦せ細り、強度のある表現は育たなくなっていった 。今回の3人の演奏を観て、Bar Issheeは音楽的な営みと自由な実験性を確保する場として非常に重要な役割を担っているとあらためて確信した。


1) https://brainwashed.com/mumma/images/Ambi1.73.jpg

2) http://www.nicolascollins.com/trombone1playing.htm

INFORMATION

Bar Isshee

Tumo:竹下勇馬, 石原雄治, guest: 高岡大祐
2018年6月5日

WRITER PROFILE

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dj sniff

1978年生。ターンテーブル奏者、DJ、キュレーター。オランダのSTEIM電子楽器スタジオで2012年までArtistic Directorとしてリサーチ、キュレーション、レジデンシープログラムを任される。演奏家としてはターンテーブルと独自の演奏ツールを組み合わせながら実験音楽/インプロビゼーション/電子音楽の分野で活動。2017年まで香港城市大學School of Creative Mediaで客員助教授を務め、現在は東京に拠点を移しアジアン・ミーティング・フェスティバル(AMF)のコ・ディレクターを務めている。

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