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PERFORMANCE

星筐
2019.11.10 21_21 DESIGN SIGHT

Written by 吉村栄一|2019.12.3

星筐(ほしがたみ)は、日本を代表する笙奏者である東野珠実によるプロジェクト。古典的な雅楽にとらわれない笙を中心とした音楽を、種子島の岩屋や京都の清水寺など、その場所の音響の特性にあわせて演奏するという試みだ。
「響きの宇宙から聴く者それぞれが音の星座を見いだすこと」がコンセプトであり、その時間(とき)、その場所にふさわしい音楽、音響を創作しているという。

今回、星筐プロジェクトの舞台に選ばれたのは東京・六本木ミッドタウンの敷地(庭)内にある“21_21 DESIGN SIGHT”のギャラリー3。ギャラリー3は2017年にオープンしたスペースで、内部は三角体が複数組み合わさったような形状。ここでの音楽公演は初めてだそうで、たしかにおもしろい音響の特性が期待できる空間だ。
ギャラリー3でのテーマは「循環する四季の庭」で、この変わった形の場所を都会の洞窟に見立てて、ひとつの楽器として響きを発するという。

会場内では1970年の大阪万博のときにバシェの音響彫刻と電子音響のために武満徹が書いた「四季 Seasons」を、その独特の図形楽譜とインストラクションの指示を数値化し、コンピューターに自動生成させた作品や、この日のコンサートでも演奏された藤倉大作品などを使った、音と光によるインスタレーションが開催されており、コンサートはそのインスタレーションとの共演という形で行われた。
演奏者は東野、中村華子、五月女愛の3人の笙奏者。この3人は、ともに雅楽演奏グループである伶楽舎に所属するいっぽう、さまざまな活動を行なっている。東野は9月にすみだトリフォニーホールで行われた“ブルガリアン・ヴォイス アンジェリーテ”の来日公演に客演したときもすばらしい演奏を聴かせてくれた。

壁面にガラスが多用され、外の庭と繋がっているようにも感じられるギャラリー3内では2つの投光器が床から青と白の光を発し、波の形のようにそれぞれ高さを変えたスタンドの上で電球が光っている。コンサートは日没の時間に合わせた16時39分の開始(午前中にも行われた)。
次第に外が暗くなり、音楽は9本の電球による光の波形を背景として始まった。最初は雅楽の古典「季節(とき)の調子」、そしてインスタレーションとの共演となる武満徹の「四季 Seasons」。会場内に設置された4本の超指向性のスピーカーのデザインは、東京都現代美術館で『ダムタイプ|アクション+リフレクション』展を現在開催中のダムタイプの高谷史郎、空間音響デザインはzAk、音響のプログラミングは矢坂健司。スピーカーからは東野が採集し続けてきたフィールド・レコーディングの音が密やかに流れる。種子島の海や大磯の海岸の玉砂利の音など、東野にとっては宝物のような音だという。
そのせいもあるのだろうか。コンピューターが合成する電子音と生の笙による合奏と、幽玄な光の融合の空間にいる心地よさは、武満徹はもちろん、バシェの音響彫刻とも縁がある近年の坂本龍一の音響のインスタレーションをどこか想起させる。
聴衆は、会場内の好きなところに座って音を聴くのだが、各スピーカーが指向性の高いものだけに、聴こえてくる音響は座った場所によってかなりちがうはず。そして複雑な形状の場内に生で鳴らされる笙の音の反響も当然ちがう。どこに座って聴くかで音楽に微妙な差が生まれ、一期一会のような感覚を得られるのはおもしろい。通常のコンサートでは会場内のどこでも同じ音が聴こえるように音響が設計されるが、ここは都会の洞窟、つまり“自然”を目指しているので、いる場所によってちがって聴こえて当たり前。音が聴く人それぞれの個人的な体験となる。

3曲目は東野のオリジナル曲「まばゆい陽射しを仰ぎ見て」。この頃には場外はすっかり暗く、ときおり、散歩中の犬の鳴き声が響いてくる。外の犬からは光にあふれるこの空間はどのように見え、音響によって振動しているだろうガラスからはどんな音が聴こえていたのか。

最終曲は英国在住の現代音楽家である藤倉大が星筐プロジェクトのために書き下ろした新曲「帯 Obi for Sho and Electoronics」の世界初演となった。電子音楽にも造詣の深い藤倉らしいグラニュラー・シンセと、スタッカート演奏をさせた笙の合奏曲。この演奏の最後に、東野は笙を奏でながら開け放たれたドアから会場の外に去っていく。笙の音が密閉された空間から外に解放され、星空の下に消えていった。

INFORMATION

星筐

2019.11.10
21_21 DESIGN SIGHT

WRITER PROFILE

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吉村栄一 Eiichi Yoshimura

1966年福井県生まれ。月刊誌『広告批評』(マドラ出版)編集者を経てフリーランスの編集者、ライターに。主な著書に『評伝デヴィッド・ボウイ』(DU BOOKS)、編書に『40 ymo by Kenji Miura』(KADOKAWA)など多数。“JBpress autograph”(https://autograph.ismedia.jp)で『音楽遠足』、“GQ Japan”(https://www.gqjapan.jp)で『教授動静』を連載中。

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