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PERFORMANCE

LAND FES DIVERSITY 高円寺
2022.4.16-17
高円寺南口駅前広場

Written by 呉宮百合香|2022.6.10

人で賑わう週末の高円寺。南口駅前広場が「LAND FES DIVERSITY 高円寺」の集合場所だ。
LAND FESは、街歩きしながらダンスと音楽のセッションを鑑賞するイベントとして2011年に始まり、仙川・深川・芝浦など様々な街を舞台としてきた。高円寺での開催は、8年ぶりの2回目となる。事前に告知されるのは、集合場所と出演者のみ。今回は計8組が日替わりで出演した。

1日目は、赤シャツに青コートの小暮香帆の登場から始まった。広場を颯爽と巡り、水辺に佇み、人の目を少しずつ引き付けていく。小暮に導かれて進む途中で、観客は2組に分けられる。
筆者の組は、まず高円寺氷川神社へ。中村大史が奏でるブズーキとアコーディオンに乗せて、ブレイキンをベースとする待寺優がバンダナをはためかせ天地自在に身軽に踊る。そこに小暮も加わり、前景と後景を巧みに使ったセッションに移行する。すれ違う一瞬に、微笑みが交わされていたのが印象的だ。
次いで向かったのは、仁王像が睨みを利かせる長仙寺。緑が美しい庭園にうつ伏せたスーツ姿の川口隆夫が、ゆっくりと芝生の中を転がり泳ぎ、躓きそうな足取りで立ち上がる。動きへの衝動をギリギリまで抑える川口を、サックスの松丸契がじっと見据え、絶妙な一瞬を的確に捉えていく。日の照りと陰りが、両者の対峙を演劇的に彩る。

本や古道具が所狭しと詰め込まれたコクテイル書房では、南雲麻衣とイルマ・オスノが待っていた。ペルー伝統のチンリリとティンヤを持ち替えながら、甲高い声音で歌うオスノ。アンデスの響きが満ちるなか、ひしめく群衆の間をすり抜けて小上がりにあがった南雲は、語るように動きを紡ぐ。囲炉裏、福助人形……と視線と指先が観客の意識を誘っていく。
最後に行き着いたのは、環七の程近くに位置する倉庫。異なるルートを辿った2組が、ここで再び合流する。シャッターが閉まるとショーの始まりだ。紙に身体に色を塗り付ける戸松美貴博、サキ☆ナミ、西岡武志のダンスと、金秀一らのピリとチャンゴの演奏。輪に呼び込む口上に笑ったり、真剣勝負の眼差しに気圧されたりするうちに、観る側にも共犯の感覚が芽生えてくる。

2日目の先導者として現れたのは、レオタードに傘をかぶったアオイツキの2人だ。アオイヤマダと高村月は、巡回する警官の周囲でひとしきり踊ってから、しれっと横に並んで横断歩道を渡る。氷川神社に到着すると傘を畳み、境内にある日本唯一の気象神社の参拝に観客をつれて向かうなど、どんな場所も瞬時に舞台に変えていく。そしてアイヌ文様を纏うマユンキキとのコラボでは、歌声に寄り添って物語世界を創りあげた。

商店街中ほどの雑居ビルの屋上に出ると、アフリカンな空気に包まれる。サバールをパワフルに打ち鳴らす新倉壮朗とワガン・ンジャイ・ローズ、観客の手拍子、その中をターザンさながらに身を乗り出しながらGenGenが躍動する。新倉も時折立ち上がってダンスの掛け合いを披露。更にはその招きに応じて、客席にいた待寺優が踊り出る場面も。鮮やかな黄・緑・青が交錯し、リズムは最高潮に達した。
路地に入り喧騒を離れた長仙寺の境内には、新人Hソケリッサ!の7名が静かに佇んでいた。門の裏から響いてくる大熊ワタルのクラリネットの低音を受け、ひとりひとり順に進み出て、地を踏みしめ空を仰いで舞う。一巡すると円をなして大熊を巻き込み、『遠き山に日は落ちて』の旋律と共に庭の奥へと去っていく。
終着地は、前日と同じ倉庫であった。間接照明が効いた薄暗い空間、細井徳太郎が爪弾くギターがムードを高めるなかで、さとうあいと大前光市がデュエットする。狭い中でも自在に滑走するさとうと、脚の長さや向きを自由に変化させる大前は、向き合い寄り添い、指先だけ触れ合わせてまた離れ、繊細な距離感を描き出した。

東京五輪招致の頃から、ダイバーシティの語が盛んに用いられるようになった。多様なあり方に注目が集まり、社会環境整備にも反映されることは喜ばしい一方で、その表象に違和感を覚えることも少なくない。
私たちのアイデンティティは単一ではない。複数の要素の集合体であり、例えば国籍のような特定の属性に全てを還元することはできない、障がいの有無・性的指向なども同様に一構成要素であって、更にその中にも微細な濃淡や揺らぎがある。にもかかわらず、わかりやすい差異だけに過剰に光を当て枠にはめてしまう例は、パフォーミング・アーツの領域においても多い。
この点において、各出演者の多面的な魅力が発揮された今回の8セッションは、観る者の認識のバイアスを問う契機ともなりうるものであった。最も多様なもの。それはまさに、複数性を内包しながら人生を積み上げてきた個々の身体であり、そこから生まれる豊かな表現なのだろう。LAND FESが体現するのは、同化でも排除でもなく、ばらばらの身体を持つ者がばらばらのまま重なり合う「異化と統合」へのビジョンである。
「景観は人が作れる *」と主宰の松岡大が語るように、こうした試みが街に現れ、「当たり前」を揺るがすことは重要だ。街の風景は、必ずや人の身体と思考に影響を与える。ダイバーシティの言葉ばかりが一人歩きする今こそ、個の表現と出会いに地道にフォーカスし続けるその活動の意義は大きい。

* 2日目の終演後に行われたトークイベントでの発言。

INFORMATION

LAND FES DIVERSITY 高円寺

主催・制作:NPO法人LAND FES
協賛:Rethink PROJECT(www.rethink-pjt.jp)
運営:NPO法人LAND FES、Rethink PROJECT、地域協力者の皆様
後援:杉並区、小菅村

WRITER PROFILE

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呉宮百合香 Yurika Kuremiya

ダンス研究。主な研究対象は、2000年代以降の現代ダンス。また、ダンスアーカイヴの構築と活用をめぐるリサーチも継続的に行っている。2015-2016年度フランス政府給費留学生として渡仏し、パリ第8大学で修士号(芸術学)を取得。川村美紀子「地獄に咲く花」パリ公演をはじめ、ダンスフェスティバルや公演の企画、制作に多数携わる。「ダンスがみたい!新人シリーズ16・17」審査員。(独)日本学術振興会特別研究員(DC1)。現在、早稲田大学文学研究科博士後期課程在籍。

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