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PERFORMANCE

ピンク・マティーニ
ブルーノート東京、2018.10.27 – 10.29

Written by 住吉智恵|2018.12.17

撮影 : 佐藤 拓央

 

2000年代に初めて彼らのアルバムを聴いたとき、古い音源の復刻か?と思ったものだ。それともドイツあたりのホテルのラウンジの凄腕のハコバン?? ピンク・マティーニは、世界のあらゆる時代や国のスタンダードを、ハリウッド映画黄金時代のジャズ・バンドのスタイルで聴かせる音楽集団だ。1994年、ピアニストでリーダーのトーマス・M・ローダーデールによりオレゴン州ポートランドで結成。同年にカンヌ映画祭でヨーロッパ・デビュー。アメリカではカーネギー・ホールやハリウッド・ボウルで、ときには交響楽団を従えて公演してきた。2011年には、トーマスが中古レコード店で発見して以来のファンだった由紀さおりとのコラボレーションアルバム「1969」を発表。日本の歌謡曲の旋律の美しさや濃やかな叙情性を世界に伝えた。

撮影 : 佐藤 拓央

 

ブルーノート東京初登場となる本公演は5年ぶりの来日。メンバー同士の距離が近く、楽器とヴォイスが互いに呼吸をはかりながら代わる代わる語りかける。オープニングの「BOLERO」に始まり、クラシック、ラテン、ジャズ、歌謡曲と多彩なセットはまさに世界周遊の旅だ。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、日本語、トルコ語を驚くほど自然に操るチャイナ・フォーブスの歌声は、ホテルや客船のような多文化的サンクチュアリを思わせるコスモポリタンな温かさを体現する。「赤坂芸者とのワンナイトスタンドの恋を歌った曲を、箏をフィーチャーして“アメリカ人ども”がアレンジしました」という、和田弘とマヒナスターズのカヴァー「菊千代と申します」では、有名な箏曲「六段の調」からの導入という粋な展開を聴かせた。ムード歌謡に相応しい艶のある声で筆者を骨抜きにしたティモシー・ニシモトの日本語がまた少し上手くなっている。

クライマックスではこの夜のサプライズゲスト、由紀さおりが登場。「天使のスキャット」のB面収録の知られざる名曲「タ・ヤ・タン」をメランコリックな濡れた囁きで披露した。童謡から歌の世界に入り、ダンスホールやキャバレーのビッグ・バンドで修業したという由紀は、彼らとの共演を原点回帰のように楽しんでいる。おまけに「ズンドコ節」のカヴァーでは、「8時だよ全員集合!」でおとぼけを見せていたコメディエンヌの面影も垣間みた。

撮影 : 佐藤 拓央

 

アンコールの「BRASIL」まで一気に駆け抜けたライヴは、勝手に顔がほころぶ多幸感で空間全体を包み込んだ。オーケストラと歌手という編成の魅力は、ライヴの「現場」で演奏家1人1人が代替のきかない存在であること、ステージに乗った全員が楽しんでプレイする姿に視覚的にグッとくること、そしてオーディエンスもそのグルーヴに巻込まれる高揚感に尽きる。ポートランドから世界中の音楽史を旅してきたピンク・マティーニ。フィナーレで観客を総立ちにさせたのは、キラキラと散りばめられた音楽への憧憬というエッセンスであった。

 

INFORMATION

ピンク・マティーニ

ブルーノート東京
2018.10.27 - 10.29

WRITER PROFILE

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住吉智恵 Chie Sumiyoshi

アートプロデューサー、ライター。東京生まれ。慶応義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。1990年代よりアート・ジャーナリストとして活動。2003〜2015年、オルタナティブスペースTRAUMARIS主宰を経て、現在、各所で現代美術とパフォーミングアーツの企画を手がける。2011〜2016年、横浜ダンスコレクション/コンペ2審査員。子育て世代のアーティストとオーディエンスを応援するプラットフォーム「ダンス保育園!! 実行委員会」代表。2017年、RealJapan実行委員会を発足。本サイトRealTokyoではコ・ディレクターを務める。http://www.traumaris.jp 写真:片山真理

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