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PERFORMANCE

トリオ・キューバップ
ブルーノート 2019.4.15-16

Written by 高橋慎一|2019.5.20

Photo by Makoto Ebi

現在のキューバ音楽シーンを代表するピアニスト、アクセル・トスカ率いるTRIO Cu-Bopの来日公演が4月15、16日にブルーノート東京で開催された。このトリオは、私が監督した音楽ドキュメンタリー映画『Cu-Bop』( https://cu-bop.tumblr.com/ )から派生したバンドで、映画のメインアーティストであるアクセル・トスカと、在米キューバ人ドラマーのアマウリ・アコスタの双頭リーダーに、気鋭のベース奏者ブランドン・レーンを加えた、日本公演2晩限りの特別プロジェクトである。

キューバ音楽といえば大ヒットした映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』で描かれた、現地の大衆音楽「ソン」を基調としたラテン歌謡を想像する方が多いだろう。ジャズに造詣の深い人ならば1940年代に一大ムーブメントを巻き起こしたアフロキューバンジャズ、社会主義革命後の選抜教育によって誕生したゴンサロ・ルバルカバのような超絶技巧の天才アーティストを連想するだろうか。今回紹介するアクセル、アマウリら新世代のキューバ人アーティストは、自身の胎内記憶としてラテン音楽やアフロキューバンのリズムを確実に身につけてはいるが、より大胆に、自由にあらゆる音楽を咀嚼して自分たちにしか出来ない音楽表現を志している。

撮影 : 衣斐 誠

アクセル・トスカは世界的に活躍するシンガー、シオマラ・ラウガーを母に持ち、キューバの首都ハバナで生まれ育った。10代で現地ジャズシーンで頭角を表し、社会主義の厳格な統制下にあった2006年に祖国を出て、ニューヨークで反カストロ派の文化人を父に持つ在米キューバ人アマウリ・アコスタと出会いミクスチャー・ジャズユニット(U)nityを結成。ロバート・グラスパーからアフロキューバンの宗教音楽まで飲み込んだ、深い音楽的素養を高度な演奏能力で表現した彼らのサウンドは、ここ日本でも先鋭的ジャズにアンテナを立てる一部音楽ファンから熱狂的に支持された。

(U)nityは多くのミュージシャンがセッション的に集まる「コレクティブ(彼らが好んで使う表現。バンドよりもゆるい集合体のことだろうか)」だが、今回の来日公演はトリオ編成になったことで、よりアクセル、アマウリの本質が出たように思う。スタンダード「Prince of Darkness」ではたっぷりと聴かせたソロで純然たるジャズミュージシャンとしての能力の高さを見せつけたのもつかの間、後半部ではアマウリの正確なクラーベのリズムに先導され、アクセルが情熱的なトゥンバオ(サルサのピアノで知られるリズミカルなプレイ)を披露し客席を大いに沸かせる。レジー・ワークマンに捧げた曲ではアフリカン・アメリカンであるブランドンが美しいウォーキングベースを聴かせ、その余韻の消えぬまま次の曲ではチューチョ・バルデスにインスパイアされたラテンジャズで祝祭的な高揚を客席に体感させる。ジャズ、ラテン、アフロキューバンがスリリングに同居し、緊張と弛緩、抑制と衝動が巧みに入れ替わるステージングは圧巻の一言だった。

撮影 : 衣斐 誠

キューバ音楽の現在進行形として現時点でも相当な到達点にいる彼らだが、秒速で変化し続けるニューヨークのジャズシーンにあって、今後どのような展開を見せてくれるのか期待を込めて見守りたい。

INFORMATION

トリオ・キューバップ

ブルーノート
2019年4月15日-16日

WRITER PROFILE

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高橋慎一 Shinichi Takahashi

映画作家 / 写真家 / ライター

東京工芸大学卒業。雑誌・書籍・CDジャケット等でフォトグラファーとして活動。ライターとしてジャズ・ワールドミュージック等の音楽分野から旅行記、人物ルポまで執筆。2015年にドキュメンタリー映画『Cu-Bup』を初監督。製作、撮影と一人三役をこなし、日本・キューバ・アメリカ合衆国のスタッフ、ミュージシャンが入り乱れる本作を完成する。2015年には国際映画祭PAN AFRICAN FILM FESの公式上映作品に選出。キューバが舞台となる自主制作映画でありながら国交断絶中の米国でワールドプレミア上映が行われる。米国最大の映像団体AFIが主催する映画祭D.C.Caribbean Film fesでオープニング上映作品に選出。ナイジェリアで開催されるアフリカ最大級の映画祭African Movie Academy awards招待上映。米国とキューバの国交正常化が進むいまワールドワイドな規模で注目される。2018年には『Cu-Bup』に再撮影・再編集を加えた世界公開版『Cu-Bop across the border』を完成し各地で上映。
HP : http://kamita.ciao.jp/

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