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PERFORMANCE

ホエイ『喫茶ティファニー』
こまばアゴラ劇場、2019.4.11 – 4.21

Written by 藤原央登|2019.5.27

撮影:三浦雨林

 

 「詐欺」と「金」で冷徹に峻別される人種の風景

本作は近現代を通して未解決の、日本で生きる日本人から排除された人々を浮かび上がらせる。アジア諸国を出自にする人々が抱える、国籍を巡る諸問題。彼らの苦悩を、違法カジノを擁する、多摩川を挟んで東京と隣り合う街のゲーム喫茶を舞台に描く。人と場所が、不安定な境界線上に立たされていることが強調されている。

本作のキーワードは「詐欺」と「金」だ。政美(中村真沙海)は上司の近藤光一(斉藤祐一)と共に、手練手管を弄して元カレのシンちゃん(尾倉ケント)とその友だちロイ(吉田庸)をねずみ講に引き入れようとする。自己啓発と絡めて商品を買わせようとする斉藤の演技が胡散臭くて笑わせる。詐欺をする側、受ける側の喜劇が展開する内に、非日本人である彼らの立場―政美とシンちゃんは在日朝鮮・韓国人、ロイは日本人とフィリピン人のダブル―が明らかになる。政美は出自が影響して内定が取り消された末に、今の仕事に至った。弱い立場にある政美が日本人に使われて詐欺の片棒を担ぎ、今度は同胞を騙そうとしている。詐欺の現場が、彼らの置かれた複雑な事情の縮図になっているのだ。

撮影:三浦雨林

シリアスになってゆく劇後半、政美が日本人の婚約者から婚約破棄され、彼の子を妊娠していたことが発覚する。店にやって来た婚約者の兄(山田百次)が、政美の産んだ子供を引き取る代わりに金銭補償をすると告げて、手付金をテーブルに置く。日本国籍を取得させることが、子供の幸福につながるからだという。アイヌの祖先を持つ常連客・山本メイコ(森谷ふみ)が、そのことに反発して「これあげる」と札束をテーブルに載せる。彼女の金は、店の奥にある違法カジノで得た金である。帝国主義的な発想で金によって、民族を峻別しようとする日本人の金。そして、メイコが法を犯して得たマイノリティの金。政美はテーブルの上に重ねられた2種類の金を前に、どちらも選択できないダブルバインドな感情に引き裂かれる。このシーンは、日本で暮らしながら日本人として扱われないという、少数者の曖昧な立場を象徴していた。

撮影:三浦雨林

メイコは、入院中の在日朝鮮人の店主に編み物を届けている。網目状の編み物は、それ自体がマイノリティの問題を巡って絡まった糸の謂いに思える。しかし、編み物は人の身体を暖めもする。防寒具のような方策によって、マイノリティの人々が優しく包摂される日は来るのか。本作はイデオロギーを声高に主張しない。冷徹な「金」なるものに翻弄される人種問題の根深さを、風景のように描いて観客に投げかけた。

INFORMATION

ホエイ『喫茶ティファニー』

こまばアゴラ劇場
2019.4.11 - 4.21
作・演出:山田百次(ホエイ|劇団野の上)
プロデュース:河村竜也(ホエイ|青年団)

WRITER PROFILE

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藤原央登 Hisato Fujiwara

1983年大阪府出身。劇評家。 演劇批評誌『シアターアーツ』編集部員。共編著『「轟音の残響」から──震災・原発と演劇──』(晩成書房)。国際演劇評論家協会(AICT)日本センター会員。

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