HOME > REVIEWS > PERFORMANCE
> PERFORMANCE 鈴木昭男+宮北裕美 東京都現代美術館 2019.3.29‐3.30 KAAT神奈川芸術劇場2019.4.14
PERFORMANCE

PERFORMANCE 鈴木昭男+宮北裕美
東京都現代美術館 2019.3.29‐3.30
KAAT神奈川芸術劇場2019.4.14

Written by 桂 真菜|2019.7.20

2019年春の収穫として、パフォーミングアーツと美術の境界を溶かし、多方向から観客を刺激するサイトスペシフィック・パフォーマンスを2本、挙げたい。会場は東京都現代美術館(MOT)とKAAT神奈川芸術劇場。双方が取り組む、異分野の芸術とそれぞれの愛好家の交流を進める企画の蓄積が、奥行きあるパフォーマンスに結晶した。

両会場でフレッシュな体験をもたらしたのは、2011年より国内外で協働する鈴木昭男(サウンド・アーティスト)と宮北裕美(ダンサー・アーティスト)。MOTは屋外での上演、KAATは屋内で小金沢健人(アーティスト)も加わるが、2本のパフォーマンスには共通点があった。鈴木の音も宮北の動きも、日常のものが稀有な空間を織る糸に転じるのだ。

まず東京都現代美術館リニューアル・オープン記念展における[MOTコレクション第1期ただいま/ はじめまして]展の、『《道草のすすめ―「点 音(おとだて)and “no zo mi”》(2018-19)公開記念パフォーマンス』をたどろう。鑑賞者は屋外展示場を進むダンサーを追いつつ、彫刻や新しい収蔵作品を楽しむ。宮北は床のプレートに遭遇すると、上って背や腕をそよがせる。プレートは鈴木が1996年にベルリンで発表してから世界各地で続ける「点 音」シリーズの一環で、まわりの音に意識を向けるエコーポイントだ。耳と足を合わせた「点 音」マークを刻む円形プレート(直径46㎝、高さ5㎝、コンクリート)」は、館内外の12か所に配された(※1)。

photo Atsushi Koyama

少しずつ近づく玄妙な音色に振り返ると、鈴木が笛を吹いていた。宙を漂うように踊る宮北は、四角いコンクリートプレート(60㎝角、高さ8㎝)を階段状に積んだ5つの小山「no zo mi」に寄っては、耳を澄ます。いつしか周囲を走る子供たちが、宮北の舞を真似、鈴木が送る音に笑う。美術館のクールな貌をやわらげる子供たちの躍動には、遊戯性を宿す鈴木作品の設置に加え、緩いテンポのダンスも寄与。振付は激しい回転やジャンプを抑え、たたずみ、座るといった普段の所作を編む。さりげない在り方は、小さい子も親しめる。幼児が近づくと宮北はアイコンタクトで応え、言葉を介さず対話する。

多様な観客が受け入れやすい温かさは、鈴木の演奏にも通底する。「キュキュッ」は手鏡をスポンジで磨き、「コロッポン」はタオルでくるんだガラス製ミニボトルを細い棒でノック。幾種類もの不思議な音の源がホースや小石など身近な素材と知って、眼に映る全てのものの音を聴きたくなる。詩情豊かな「音とダンス」に心身の夾雑物が浄化されるのか、しだいに呼吸が深くなり、水辺や公園の匂いにも気づいた。

photo Atsushi Koyama

幅広い層が分かちあえる空間はKAATの現代美術展、小金沢健人『Naked Theatreー裸の劇場ー』のオープニング・パフォーマンス「はだかみたい」にも広がる。こちらではMOTの解放感に替わり、耳目を凝らす緊張に浸った。KAATの中スタジオは、塩田千春『鍵のかかった部屋』(2016)の赤い毛糸を張りめぐらしたインスタレーションと遊ぶ、平原慎太郎振付・演出「のぞき/know the key」など、充実した空間を育む。劇場機構を熟知したスタッフとアーティストの創意が、未知の表現を引き寄せるのだ。

パフォーマンスの前に、スモークマシンの効果で三次元の区分が薄れたブラックボックスを歩く。明滅する光源と降り注ぐ煙は、小金沢の娘によるドローイングを載せた白いパーティションに穿たれた穴を通るたびに、風景をあらためる。輝いては消える天井のネオンや、観客のシルエットが複雑なサウンドと相まって、環境は絶え間ない生成を遂げる。

隣接する更衣室のモニターは、ビデオ作品『半分シャーマン』(2019)の女版と男版(※2)を流す。デフォルメされた人体が文明に拮抗する映像には、不気味さとユーモアが漂う。

中スタジオの床に小金沢が日用品を組み合わせた灯明を置くと、パフォーマンスが始まる。鈴木と宮北を包む手作りの衣装(鷲尾華子)は、二人が拠点を置く京丹後の海をイメージしたデザイン。青を基調にコラージュしたニットは、照明や煙につれて色彩を変える。

曖昧模糊とした視界は、聴覚を磨く。軽やかなリズムが、鈴木の位置を知らせる。うつろう音は神秘を帯び、想像力を羽ばたかせる。宮北がパーティションのスリットから突き出す手は、ホラー映画の趣。斜め上からスポットライトが霧を裂くと同時にダンサーが腕を伸ばせば、光の道の中央分離帯さながらに指先から黒い影が伸び、身体が拡張した錯覚を招く。小金沢が板で遮ったライトは反射し、中空に鋭い軌跡を描く閃光に。重層する要素が放つ一期一会の抽象画や立体は、今も脳裏に鮮やかだ。

2本の実験精神に富むパフォーマンスは、別々のところから鑑賞する各人に、思いがけない発見を促したのではないだろうか。鈴木と宮北が喚起した音、身体、光、美術が呼応するスリリングな空間は、儚いライブ芸術ならではの価値を再認識させた。


 ※1 MOTに収蔵された鈴木昭男の作品≪道草のすすめ―「点 音(おとだて)」and “no zo mi”≫(2018‐19)は6月16日以降も鑑賞できる。
 ※2 『半分シャーマン(男)』(2019)の巨大映像がKAATエントランスのアトリウムで、2019年8月上旬まで放映される予定。ダンサーとKAATのエスカレーターや床を合成した画面は、「万華鏡で覗いた個人と社会の関係」と思える時も。

INFORMATION

PERFORMANCE 鈴木昭男+宮北裕美

東京都現代美術館リニューアル・オープン記念展: コレクション展[MOTコレクション第1期ただいま / はじめまして]『《道草のすすめ―「点 音(おとだて)」and “no zo mi”》公開記念パフォーマンス』
2019年3月29日-30日
鈴木昭男 + 宮北裕美
衣装デザイン:鷲尾華子
https://www.mot-art-museum.jp

KAAT EXHIBITION 2019 Naked Theatre 小金沢健人『Naked Theatreー裸の劇場ー』展 
オープニング・パフォーマンス「は だ か み た い」
2019年4月14日
鈴木昭男 + 宮北裕美 & 小金沢健人
キュレーション:中野仁詞
衣装デザイン:鷲尾華子
https://www.kaat.jp/


https://www.akiosuzuki.com/
https://miyakitahiromi.com/


WRITER PROFILE

アバター画像
桂 真菜 Mana Katsura

舞踊・演劇評論家として複数のメディアに寄稿。㈱マガジンハウスの編集者(雑誌ブルータス、書籍「アンのゆりかご、村岡花子評伝/村岡恵理著」「シェイクスピア名言集/中野春夫著」「現場者/大杉漣著」等)を経て現職。実験的な作品から古典まで、多彩なパフォーミングアーツを巡り、芸術と社会の関係を研究。90年代前半から海外の国際芸術祭を視察し、美術評論や書評も手掛ける。国際演劇評論家協会(AICT) 会員。早稲田大学演劇博物館招聘研究員。

関連タグ

ページトップへ