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『バハールの涙』
エヴァ・ウッソン 監督・脚本 2019.1.19公開

Written by 福嶋真砂代|2019.1.18

©2018 – Maneki Films – Wild Bunch – Arches Films – Gapbusters – 20 Steps Productions – RTBF (Télévision belge)

 

「ヤズディの女性たちの恐怖と苦痛から目を背けてはならない」

実話に基づいて作られた。イラク北部のヤズディ教徒の女性たちに降りかかった恐怖と苦痛。2014年8月のIS(イスラミックステート)の侵攻により彼らに起きた悲劇は想像を絶する。2018年ノーベル平和賞共同受賞者のナディア・ムラドは自身の恐ろしい体験を語ることで、いまだ安否不明の多くの人々の救済を訴える。ナディアはまさにエヴァ・ウッソン監督が取材した女性たちの代表者であり、“バハール”と言えよう。

砲弾飛び交う紛争の最前線。ISと戦うクルド人部隊の女性兵士バハールと、片眼の戦争記者マチルドが出会うところから映画が始まる。『パターソン』での可憐な美しさが印象的なゴルシフテ・ファラハニが、一転して兵服に身を包む孤高の兵士バハールを演じる。夫と息子と幸せな家庭を築いていた弁護士バハールがクルド人自治区へ家族で里帰りした夜、ISの襲撃を受け、悲劇が始まった。村の成人男性はことごとく殺害され、女性と少女は拉致、あげく性的奴隷として売買され、少年たちはIS戦闘員養成学校へ送られた。バハールも何回も売られ、夫は殺され、息子は行方不明となった……。

©2018 – Maneki Films – Wild Bunch – Arches Films – Gapbusters – 20 Steps Productions – RTBF (Télévision belge)

 

ウッソン監督はバハールを語るにあたり、同じ女性のジャーナリストを配した。マチルド(エマニュエル・ベルコ)は、過去にジャーナリストの夫と片眼を紛争地で失い、PTSDを患いながらも克服、ふたたび戦場に赴いた。そこで女性部隊の隊長バハールを知り、撤退していく男性記者たちを尻目に独り残る。バハールと同様に子を持つ母親だ。命がけで取材をする彼女の眼は“観客の眼”でもある。ちなみに片眼の従軍記者メリー・コルヴィン、さらにヘミングウェイの3番目の妻であり、やはり従軍記者のマーサ・ゲルホーンがマチルドのモデルとなっている。

©2018 – Maneki Films – Wild Bunch – Arches Films – Gapbusters – 20 Steps Productions – RTBF (Télévision belge)

 

さてバハールはどうやってISから脱出したのか。誰が手を貸したのか。そして息子の行方は? バハールの強さの理由とは? スリリングな後半の展開に手に汗にぎる。監督は真実をフィクションの中で伝えるため、前線と難民キャンプで多くの女性たちの声を集め、それらの証言から「バハール」という人物像を作り上げた。監督自身、フランコ政権と戦ったスペイン共和国兵士の孫娘であることの矜持を胸に、「被害者でいるよりも戦いたい」と奮い立つ女性たちのエネルギーを、闇と光の強烈なコントラストで描いていく。ナディア・ムラドを追ったドキュメンタリー『ナディアの誓い』とともに必見の1本である。

 

INFORMATION

バハールの涙

監督・脚本:エヴァ・ウッソン
出演:ゴルシフテ・ファラハニ、エマニュエル・ベルコ 
原題:Les filles du soleil(英題:Girls of the Sun)
2018年/フランス・ベルギー・ジョージア・スイス合作/111分

WRITER PROFILE

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福嶋真砂代 Masayo Fukushima

旧Realtokyoでは2005年より映画レビューやインタビュー記事を寄稿。1998~2008年『ほぼ日刊イトイ新聞』にて『ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。』などのコラムを執筆。2009年には黒沢清、諏訪敦彦、三木聡監督を招いたトークイベント「映画のミクロ、マクロ、ミライ」MCを務めた。航空会社、IT研究所、宇宙業界を放浪した後ライターに。現在「めぐりあいJAXA」チームメンバーでもある。

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