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EXHIBITION

AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展
21_21 DESIGN SIGHT 2018.6.29-10.14

Written by imdkm|2018.10.13

Corneliusこと小山田圭吾のつくる楽曲は、特に2001年の『Point』以降、研ぎ澄まされた音像と時間感覚を通じて、幾何学的な空間性を聴くものに直観させるサウンドを特徴とする。それは2017年の『Mellow Waves』で、ゆらぎの感覚を持ったトレモロやドローンを積極的に取り入れることで次のレベルに達した。こうした彼の音楽を建築にたとえるのは的を射ている。それはミニマムな要素の集積によってモダンな空間の経験を生み出すきわめて均衡の取れた近代建築(=『Point』)にも、コンピューターによる演算を通じて実現される曲線やねじれを取り込んだ動的な空間設計を実践する現代の建築(=『Mellow Waves』)にもたとえることができるからだ。

そんなCorneliusの楽曲をお題として、8組のクリエイターがオリジナルの映像作品を制作・展示したのが本展だ。会場の半分を贅沢に使った壁面・床面へのプロジェクションは単純に見ものだし、次々に投影される映像とあわせて、インスタレーション全体がひとつの優れた建築的経験を生み出している。

会場風景

とはいえ、それ自体建築的であるような音楽や、その器になる空間があまりにも雄弁であるために、映像作品それぞれのインパクトが弱まっているように思えた。つまり、「音楽」も、「建築」もこの空間においてはその存在があまりに自明であるがゆえに、そこに投影される「映像」がどのような役割を担っているのかが宙吊りになっているのだ。

これは、各々の作品が力不足だとか、そういう問題に帰せるものではない。同じ音楽、同じスクリーンで上映されることによって、作品のコンセプトが「音楽」と「建築」というふたつの大きなテーマのもとで均質化、ないし矮小化されてしまっていたと言うべきか。作品をひととおり見たあとで読んだ作品解説は鑑賞時の印象とはかなり違うニュアンスのものが多く、果たしてこのようなかたちで展示することが正しかったかという疑問は残ってしまう。

結局、Corneliusと彼のバンドによるスタジオ・ライヴの映像(稲垣哲朗)と、それを録音したPro Toolsのプロジェクト画面を提示する最初の展示室が、音楽・映像・建築という3つのテーマが互いを的確に補完しあう、もっともスマートな「作品」になっていたように思う。皮肉なことに、残りの展示(というかこの「残り」こそがメインなのだが)が、すべてそのヴァリアントに見えてしまう、それほど見事に明晰なパフォーマンスとインスタレーションだった。

Pro Toolsのプロジェクト画面

INFORMATION

AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展

展覧会ディレクター:中村勇吾
音楽:小山田圭吾(Cornelius)
会場構成:片山正通(Wonderwall)
参加作家:
稲垣哲朗、梅田宏明、大西景太、折笠 良、辻川幸一郎(GLASSLOFT)×バスキュール×北千住デザイン、勅使河原一雅、水尻自子、UCNV、ユーフラテス(石川将也)+阿部 舜
技術監修:遠藤 豊(LUFTZUG)
グラフィックデザイン:北山雅和(Help!)
テキスト:ドミニク・チェン

WRITER PROFILE

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imdkm Imdkm

ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。ブログ「ただの風邪。」http://caughtacold.hatenablog.com/

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