HOME > REVIEWS > EXHIBITION
> 「DOMANI・明日展」 国立新美術館 2019.1.23 – 3.3
EXHIBITION

「DOMANI・明日展」
国立新美術館 2019.1.23 – 3.3

Written by エミリー・ウェクリング|2019.3.15

加藤 翼《Pass Between Magnetic Tea Party》2015 Courtesy of Toyota Municipal Museum of Art and MUJIN-TO Production

「DOMANI・明日展」は、文化庁の「新進芸術家海外研修制度」を受け、海外で研修を受けた作家によるアニュアル展で、今回が21回目となる。キュレーターのエッセイや選出された作家の活動を見ると、「平成の終わりに」というサブタイトルには、ひとつの時代を振り返るという姿勢と、今日の不安への言及が込められていることがわかる。

平成は1989年現在の天皇が即位してから2019年4月30日に退位するまで30年間続いた。この時代は日本の政治社会、文化に大きなインパクトを与えた事件が起きた時代である。1980年代のバブル崩壊、1996年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災、そしていまだに放射能汚染を流出させている福島第一原発事故などがある。さらに高齢化、中国の脅威の高まりによって揺らぐ民主主義の原則など、さまざまな問題が噴出している。

多くの若いアーティストにとって2011年の東日本大震災と津波は、その後の活動に大きな影響を与えた。加藤翼は、人々との協働によって多くの作品を制作してきた作家だが、2011年3月の事故後、福島県いわき市平豊間地区の住民とともに《The Light Houses—11.3 Project》(2011) を行った。その後、アメリカ、オーストラリア、ベトナム、メキシコの地に赴いてリサーチと作品制作を続けてきた。《Pass Between Magnetic Tea Party》(2015)は、人々が協力して自動車をテーブルの上に誘導し、テーブルクロスの上を通過させた行為の記録である。ドキュメントビデオとともに展示された大量のテーブルとタイヤの跡が、圧巻の存在感を放っている。

川久保 ジョイ《千の太陽の光が一時に天空に輝きを放ったならば I》2013 *参考作品

白木 麻子《Liquid path – Buoyancy and dynamic》2017 撮影:表恒匡

川久保ジョイの作品も強い衝撃を持つ作品だが、作品単体よりもそのプロセスの方に重要な意味合いがある。《千の太陽の光が一時に天空に輝きを放ったならばI》(2013)は、写真の感光紙を福島第一原発近くの地中に埋めて放射能に被爆させることで制作された。現像された作品の鮮やかで美しい色彩が、災害の衝撃を物語る。

白木麻子の作品は一見美しくデザインされているが、よく見るとまったく機能的ではない。《A cabinet unable to hold any secrets》(2016)にはドアがない。ドアのないキャビネットは、アーティストによれば、「消失と忘却」を抽象化したものであり、ひとつの時代の終わりというはざまにある不確かさを象徴している。

対照的に、蓮沼昌宏にとって平成の終わりはつかの間の一瞬にすぎない。東北中を旅した彼は、描き溜めた小さなドローイングを手製のパラパラ漫画にして展示した。それは暗がりを走る車の窓から見える風景、あるいは鳥が飛び立つ羽ばたきのようにささやかで印象的だ。

蓮沼 昌宏《豊島》2018 撮影:表恒匡

国立新美術館でのアニュアル展は、これまで国内外の注目の作家を選出して紹介する「アーティスト・ファイル」があったが、DOMANI展は、近年活躍する日本人作家の傾向を知る上でさらに重要な展覧会といえる。同じ六本木では、日本の現代アートシーンを3年に一度総監する展覧会「六本木クロッシング」が開催中だが、その中には過去のDOMANI展の作家もいる。平成から次の時代へ移りゆくただ中にあって、若い作家たちの眼差しは、歴史の過去から現在、そして未来へ向けられている。

 

INFORMATION

未来を担う美術家たち 21st DOMANI・明日展-平成の終わりに-
文化庁新進芸術家海外研修制度の成果展

国立新美術館 企画展示室2E
2019年1月23日〜3月3日

WRITER PROFILE

アバター画像
エミリー・ウェクリング Emily Wakeling

日本、イギリス、オーストラリアでライター兼キュレーターとして活動する。東京では東京アートビート編集、女子美術大学・神奈川大学講師をつとめた。第9回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(クイーンズランド州立美術館)アシスタント・キュレーター。美術ライターとして、Eyeline Contemporary Visual Arts, Art Monthly Australasia, ArtAsiaPacific and ArtReview Asiaほか多数の雑誌に寄稿している。現在クイーンズランド工科大学博士課程に籍を置く。

関連タグ

ページトップへ