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EXHIBITION

特別展示「リヒター/クールベ」
国立西洋美術館 本館2階常設展示室バルコニー 2018.6.19-2019.1.20

Written by imdkm|2018.11.9

Gerhard Richter, Sils Maria (882-1), 2003, oil on canvas, 82 x 122 cm, courtesy of the artist, © Gerhard Richter 2018, Courtesy of WAKO WORKS OF ART

 展示されているのはわずかに3点。フランスの画家ギュスターヴ・クールベによる一枚の風景画《狩猟者のいる風景》と、ドイツの現代画家ゲルハルト・リヒターの風景画《シルス・マリア》(882-1)、及び彼の代表シリーズである「抽象絵画」から《抽象絵画(ラヴィーン)》だ。常設展示の片隅にひっそりとあつらえられた小さな空間で、美術館には場違いなほど親密な空気感をたたえて並べてある。

 リヒターとクールベという組み合わせは、意味深長なようでも、単にミスマッチなようでもある。半世紀以上にわたって絵画の(不)可能性に直面し続けてきたリヒターの前に任意の大画家を置けば、誰であれ意味ありげな緊張関係が生じるだろう。しかし、この展覧会の発想は単純だ。リヒターの自宅のダイニング・ルームにはクールベの風景画が、その隣の部屋には《シルス・マリア》がかけられているという。つまり本展は、国立西洋美術館収蔵のクールベを用いて、リヒターの自宅を擬似的に再現しているのだ。

 彼の自宅で行われたさりげないキュレーションをこの小さな空間に移植しつつ、さらにもう一枚リヒターの手になる《抽象絵画》をあいだにはさみこむことで、本展はリヒターの作品がいかにして近代的な絵画の枠組みから逸脱しているかを明快に示しているし、対照的にクールベの絵画もまた、そこから逆照射されるかたちで、自らの近代性を明るみに出している。

 そうした対比は、額縁に収められた「窓」としての絵画、というルネサンス以来の絵画観に属するクールベに対する、それ自体が自律した「イメージ」として異様な物質性を抱くリヒターとの対比に見出すことができる。また、クールベに見られる荒い筆触、たとえば鮮やかな白のハイライトは、絵画的なイリュージョンと絵画の物質性のあいだの緊張関係というこれまた近代的な問題系を想起させつつ、「イメージ」としての絵画のうえに過剰な物質性を強調する絵の具が塗りたくられた《抽象絵画》は、物質とイリュージョンというモダンな二項対立のあいだに「イメージ」を滑り込ませ、絵画の歴史のなかに現代的な視覚文化を接ぎ木しているようだ。

 と、それらしく小奇麗にまとめようと思えばいくらでも言葉を紡ぐことができる。ただ注目すべきは、このミニマムな展示が筆舌に尽くしがたい濃密な経験を提供してくれることのほうにある。いわゆる「名作」や「大作」の類がなくとも、選択と空間的な操作によって重層的な意味が生まれる、キュレーションの妙味を感じる展示だった。

Gustave Courbet, Landscape with a Hunter, 1873, oil on canvas, 80.5 x 120.5 cm, The National Museum of Western Art

INFORMATION

特別展示「リヒター/クールベ」

会期:2018年6月19日(火)~2019年1月20日(日)
会場:国立西洋美術館 本館2階常設展示室バルコニー
主催:国立西洋美術館
観覧料金:一般500円(400円)、大学生250円(200円)

WRITER PROFILE

imdkm
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ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。ブログ「ただの風邪。」http://caughtacold.hatenablog.com/

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