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EXHIBITION

SHIMURAbros  
「Film without Film 映画なしの映画」展
ポーラ美術館アトリウムギャラリー 2018.12.8ー2019.3.17

Written by 藤原えりみ|2019.2.1

©Ken Kato

 私たちの身体をスクリーンと化す、映画の時間を実体化する試み。

まずは光学ガラスを使った丸い鏡のようなオブジェが観客を出迎え、足を進めていくとケースに置かれた2つの小さな金属製の立体が目に入る。ひとつは「Un  Chien Andalou」という文字、そしてもう1つは寄り添って歩く2人の人間の後ろ姿のような形が見える。さらに壁面には同じく金属製の蛾も。これらは、ルイス・ブニュエル監督の映画「アンダルシアの犬」から抽出されたモチーフで、オープニング・タイトル、ラスト直前のシークエンス、映画後半に登場する蛾のショットに対応している。この「映画なしの映画」というタイトルをもつ作品は3つのシークエンスをデータ化し、3Dプリンターによって立体化したものだ。実体を持たない映像イメージに実体を与える行為を、彼らは「ありのままの光の形態の表現」と呼ぶ。

©Ken Kato

©Ken Kato

光学ガラスが微妙な色彩変化と多重像を生む「Trace-Sky-Tokyo-Story 03/07」も、小津安二郎監督の「東京物語」の空と電線をモチーフとしている。だが、こちらはグーグル・ストリート・ヴューの表示エラーからヒントを得た作品だ。東京の街中の電線がジグザグに表示されるというエラーが起きたとき、彼らは日常生活において私たちははたして「自分の目で見ているのだろうか」という疑問を覚えたという。日々溢れる画像や種々の動画は報道や映画のカメラのレンズを通して私たちのもとに届けられる。そこにデジタル技術が加わることによって、本来起こりえない事態が「事実」として容認されうる奇妙な反転現象が起こる。「私たちは自分の目で一体何を見ているのか?」という問いかけだ。作品の中に見える黒い棒は、実物の電線を切断したもの。ここでも光によるイメージと物質存在が交差している。

©Ken Kato

そして、映像作品「Silver Screen」(2012年/2018年再制作)は、リュミエール兄弟による映画「シオタ駅への列車の到着」に触発された作品で、プロジェクターからの映像を鏡を使って反射し、汽車の煙を思わせるCGイメージを空中に出現させる。映画館では観客は映写機に背を向けてスクリーンを見つめるのだが、この作品では私たちは映写機に相当するプロジェクターと向き合い、鏡の反射が織り成す映像の光を一身に浴びることになる。これは、アピチャッポン・ウィーラセタクンが「フィーバー・ルーム」で実際のスモークをスクリーンとして使用したテクニックに近いのだが、雲海の上に観客を導くような幻影性と神秘性を生むアピチャッポン作品とは対照的に、シムラブロス作品は「見ているのは私たちではなく」て、むしろ「私たちが映画になっているのではないか」という奇妙な感覚を引き起こす。つまり、私たちの目が、そして身体がスクリーンになるのだ。私たちが映画になっている?? 見られる対象から見る主体への転換が起きるのはラストのオレンジ色の光の瞬きが網膜を刺激する瞬間だ。線香花火を撮影したこのシークエンスによって、私たちの身体は現実へと引き戻される。ほっとするとともに、名残惜しさがそこはかとなく漂う余韻がまた味わい深い。

©Ken Kato

杉本博司の「シアターシリーズ」が映画の時間の視覚化ならば、シムラブロスの試みは映画に内在する時間の物質化と言えるだろう。知的でありながら身体感覚を揺さぶる、快くも刺激的な創造空間が切り拓かれていく。

 

INFORMATION

SHIMURAbros「Film without Film 映画なしの映画」展

ポーラ美術館アトリウムギャラリー
2018年12月8日ー2019年3月17日

SHIMURAbros HP

WRITER PROFILE

Erimi Fujiwara藤原えりみ
藤原えりみ Erimi Fujihara

美術ジャーナリスト。東京芸術大学大学院美術研究科修了(専攻/美学)。女子美術大学・東京藝術大学・國學院大学非常勤講師。著書『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)。共著に『西洋美術館』『週刊美術館』(小学館)、『ヌードの美術史』(美術出版社)、『現代アートがわかる本』(洋泉社)など。訳書に、C・グルー『都市空間の芸術』(鹿島出版会)、M・ケンプ『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(大月書店)、C・フリーランド『でも、これがアートなの?』(ブリュッケ)など。

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