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EXHIBITION

SPREAD by SPREAD 明日は何色?
2021.10.27-11.7
Spiral Garden

Written by 長岡勉|2021.12.15

色という手法をもちいながら、グラフィカルな視覚的効果とランドスケープ的な視点から環境全体のデザインを行うクリエイティブユニットSPREADの表参道スパイラルでの展示、「SPREAD by SPREAD 明日は何色?」に行った。展示のテーマは“色は喜び!”。“喜びー!”ってシンプルな響きだが、なかなかハードルの高いテーマ設定である。

通常、展覧会を見に行くと、“この展示はここが素晴らしい”とか、“面白かった”とか、鑑賞した作品について意見や感想を述べることはできる。でも、喜びとなると話は別だ。他人が喜んでいる姿は簡単に見つけることはできるが、自分が本当に喜んでいるかどうかは、案外と意識下にある自分の身体と向き合わないと分からないと思う。

SPREAD《Much Peace, Love and Joy》

今回の展示で、一番大きく会場全体へと広がった作品である《Much Peace, Love and Joy》は、印刷技術と素材にこだわり、とても鮮やかな色のグラデーションで溢れた空間をつくりだしている。この色に溢れた環境を楽しむためには、色を見るというよりは、色を身体で浴びに行くという感覚で向き合うのが良い。自分の外側にある“作品としての色”を眺めるというより、自分の身体を包みこむ“環境そのものとしての色”を感じる感覚。そのような感覚に自分を委ねると、色を浴び、色を喜ぶ自分の身体を感じることができる。喜ぶとは、極めて主体的に身体が心地よさや気持ちよさに反応している状態をさしていると思う。色は極めて視覚的に認識されるものだが、あるレンジを超えた鮮やかさやスケールにたどり着くと、急に身体全体で色そのものを浴びて喜ぶ感覚になる。《Much Peace, Love and Joy》 はそんな身体が喜ぶことに気づく作品になっていると思う。

身体が喜ぶ色という切り口で感じたことを書いてきた。しかし、この展覧会では身体が喜ぶ環境としての色だけでなく、鑑賞の対象として脳内で色の快楽を楽しむ作品も展示されていたので気になった作品をいくつか取り上げてみる。

会場にひとつの風景写真が展示されていた。雑草が勢い良く生い茂った草むらに、作品《Much Peace Love and Joy》がコラージュされた写真。緑の草むらを背景にして、ビビットな色の欠片が浮かび上がるように合成されたように見えるのだが、この作品は実は合成ではなく、日がさんさんと降り注ぐ草むらで、色の欠片を実際に配置して撮影したものだと後から気づかされた。(自分では気付かず作家に教えてもらった)

一瞬“えっ?”と目が見ている対象を自分の脳が疑う。平面に閉じ込めたはずの写真を乗り越えてビビットな色が飛び出てくる。“脳内アナログ3Dかよ!”とツッコミをいれたくなる、恐るべきビビッドグラデーションカラーの欠片たち!

SPREAD《観賞用コントラスト》

写真に閉じ込められた空間認知のエラーだけでなく、同じくリアルな空間においても空間認知のエラーがおきるのが《鑑賞用コントラスト》。この作品はとても薄い金属のシートを1回折り曲げることで、3次元の世界と平面の世界の間に存在しているような佇まいをしている。ビビッドな色が平面的なエッジの際まで塗られていて、それがスパッと空間に投げ出されることで、空間的な前後感覚を乗り越えて、色が手前に浮き上がってくるような効果を生み出している。これまた同じ言い回しの繰り返しになるが、あるレンジを超えた鮮やかな色は空間の遠近感を乗り越えて目の前に飛び出てくるという効果があるようだ。

SPREAD《Life Stripe》

興奮気味にスパイラルの展示会場を進んでいくと、展示の最後の空間を締めくくるのは、ライフワークでもある《Life Stripe》。これは人の記憶とその世界の記述を(人の行動形式によって21に分類された)鮮やかな色で表現するという作品。

SPREAD《Life Stripe》

一見綺麗なストライプ模様がランダムに並べられたパネル。その色一つ一つに割り振られた人の行動形式によって記述された他者のある1日の暮らしを妄想するという脳内変換を求める作品。ちゃんと読めるようになるまでには、若干の慣れが必要だが、脳内変換に慣れたら一気にハマる。《Life Stripe》では1日という(おそらく地球上の誰でもが――人間だけでなくあらゆる生き物――共有できる)時間軸の単位を物差しとしているので、他者の行動形式を自分の行動形式と重ね合わせ時間を追体験することができる。21色のカラフルな色の縞模様と行動形式を照合するのに手間と時間がかかるのも、この作品の世界(他者の日常のくらし)に没入するための必要な儀式のように思えてくる。

今回のSPREADの展示は、鮮やかな色という共通する手法を用いながら、“喜び”という曖昧だが強い実感をともなった体験へと導いてくれる。そしてその“喜び”とは、身体的な心地よさと、脳内認知の変換という知的な快楽の間を行き来しながら、ぼくらが感じとる世界の範囲を拡張させている。

INFORMATION

SPREAD by SPREAD 明日は何色?

会期:2021年10月27日-11月7日
会場:Spiral Garden
主催:SPREAD
企画協力:スパイラル
協賛:株式会社NBCメッシュテック、クラウドファンディング賛同者

WRITER PROFILE

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長岡勉 Ben Nagaoka

1970年東京生まれ。慶応大学SFC政策メディア研究科修了。山下設計で活動後、POINTを設立。建築・インテリアの設計業務の他に、クリエイターのためのシェアオフィス<co-lab>の設立に参加する等の活動を行う。2020年4月からVUILDのメンバーとしても活動。 現在、慶應義塾大学・武蔵野美術大学非常勤講師。

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