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EXHIBITION

有吉達宏展『to elephant time』
MEM 2019.2.7 – 2.24

Written by 土居伸彰|2019.5.22

“to elephant time” 2018-2019, Animation ©Tatsuhiro Ariyoshi, courtesy MEM, Tokyo

 

まだ見たことのないなにかを探る線

第11回恵比寿映像祭の地域連携プログラムの一環としてMEMにて開催された有吉達宏の個展「to elephant time」は、同名の新作アニメーションを中心とした展示を展開した。

有吉のアニメーション作品は、描線から感じられる「冷血さ」とでもいえる感覚が特筆すべきものである。それは結果として、人間の(温かな)意思を超えたスケールの何ものかを宿らせ、感知させる。本展示で上映された新作「to elephant time」は、その描線のポテンシャルを理想的に体現するものだった。

振り返ってみると、有吉の過去のアニメーション作品は、たとえば武蔵野美術大学の時代には「物語を語るもの」、東京藝術大学大学院の時代には「メタモルフォーゼをするもの」、そして近年の作品は「爆発や破壊を伴うもの」と変遷を辿ってきたように思われる。それらの方向性は、ある意味でアニメーション「らしい」ものである。動きに生命感が感じられたり、とある個人の内的な空間を作り出したり、(表面的な冷たさはあれど)「人間らしさ」や「有機性」に基づいたものであるからだ。

Installation view of Tatsuhiro Ariyoshi exhibition “to elephant time”, at MEM in 2019「to elephant time」/p>

一方、「to elephant time」において私たちが目撃するのは、無機的な線である。たてつづけに現れる描線は、「生命の幻想」を作り出したりはしない。線は互いに関係しあわぬままに動き回り、特定の有機体の存在へと結ばれていったりはしないのである。連続して現れる絵がつながりあわず、何かの表象になるわけでもない様子は、アニメーションよりも実験映画の文脈でのドローイングを用いた作品を思い出す。たとえば、「LOVE SONGS」などのスタン・ブラッケージのペイント・オン・フィルム作品といったものである。それらの作品では、各フレーム上に描かれたドローイングやペインティングはその前後のフレーム上の絵と連続することを想定されていない。結果として、動きはあれど、それがなにか受信可能な意味を生み出すことがない。

それはあたかも、発した本人以外は意味を解することのない個人言語、もしくは読解の手がかりのない古代・宇宙言語のように、ただそこにボソリとつぶやかれたまま、置き去りにされたもののようである。偶然見出されてしまったなにか、生命とも非生命とも判断がつかないものをスクリーンに定着させる。「to elephant time」は、そのような不可思議ななにかを描き出す。

Installation view of Tatsuhiro Ariyoshi exhibition “to elephant time”, at MEM in 2019/p>

「to elephant time」は、前半において「ただ線が動いている」としかいいようのない展開を見せつつも、その後半には、また違った展開が訪れる。画面に登場する細い線は、次第に線を太くしていき、そして図形へと変容する。黒と白だけだった世界には青が訪れる。手描きの描線はモーショングラフィックのCGを思わせるようなモーフィングの線となる。そして、突如として作品は終わりを迎える。

突如として終わるように思えるエンディングについて、会期中のトークにおいて、有吉は、何かが振り向いたような気がした、と言っていた。その振り向いたものとはなにか。この作品における描線の動きは、宇宙の最前線を探索する行為のようである。「to elephant time(象の時間へ)」……その「象」とはおそらく、私たちから遠く、そして大きな世界につながるなにかなのではないか。「to elephant time」は、人間(有機性・生命)にはおさまらない未踏の領域を捉えるためのツールのような作品であり、まだ私たちが見たことのない何かの痕跡を、観るものに留める。

INFORMATION

有吉達宏展『to elephant time』

MEM
2019.2.7 - 2.24

WRITER PROFILE

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土居伸彰 Nobuaki Doi

1981年東京生まれ。株式会社ニューディアー代表、新千歳空港国際アニメーション映画祭フェスティバル・ディレクター。ロシアの作家ユーリー・ノルシュテインを中心とした非商業・インディペンデント作家の研究を行うかたわら、AnimationsやCALFなど作家との共同での活動や、「GEORAMA」をはじめとする各種上映イベントの企画、『ユリイカ』等への執筆などを通じて、世界のアニメーション作品を広く紹介する活動にも精力的に関わる。2015年にニューディアーを立ち上げ、『父を探して』など海外作品の配給を本格的にスタート。国際アニメーション映画祭での日本アニメーション特集キュレーターや審査員としての経験も多い。著書に『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』、『21世紀のアニメーションがわかる本』(いずれもフィルムアート社)など。

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