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EXHIBITION

丹羽良徳「誰も要求していない計画に全会一致で合意する」
GALLERY X BY PARCO 2019.4.19-5.7

Written by 住吉智恵|2019.6.13

Yoshinori Niwa “We Unanimously Agree on a Plan That Nobody Has Asked For” installation view
PHOTO TAKAMURADAISUKE

丹羽良徳はこれまで一貫して「労働」「消費」「経済」をテーマの1つとして活動してきた。現在はウィーンを拠点に、世界規模でその軋みをあらわにする資本主義と絶滅間近の社会主義との隙間にこぼれ落ちた、個人と集団の意思の有りようを暴き出す作品を発表している。

渋谷の喧噪に紛れたギャラリー(エントランスに旧PARCO PART3のネオンが設置されている)は、バラック仕立ての仮設空間と化し、都市に擬態したレジスタンスのアジトのような不穏な空気を充満させていた。本展では丹羽の代表的な映像作品と共に、近年、言語そのものが機能する場に注目し制作しているネオンサインやミクストメディアの新作を展示。『想像した未来には到達しないと想像している』。『会社の予算でゴミを購入する(戦争は始まったあとでお知らせする)』。『生存を維持するためにやむえず行う作業』。暗がりにぼやっと浮かぶポップな文字は、作家から他者あるいは自身に対する問いかけなのか、有名無名の何者かがぶち上げた挑発的な言葉の断片なのか。宙づりのまま全てが放置される展示構成は、集団決定における意思・責任不在の社会を連想させた。

丹羽良徳 「誰も要求していない計画に全会一致で合意する」展示風景
PHOTO TAKAMURADAISUKE

一方で、丹羽が仕掛ける奇天烈なパフォーマンスとその記録映像が淡々と上映されている。なかでも『イスタンブールで手持ちのお金がなくなるまで、トルコリラとユーロの外貨両替を繰り返す』 (2011年)、『マーケットで自分の所有物を値付けする』(2018年)などのプロジェクトでは、資本主義の社会構造のなかで、目に見えない経済システムが、そこにがんじがらめに組み込まれた個人の生活を立ち往生させていることを可視化する。それはとうに開示された歴史認識を“今さら”再検証し、社会に埋もれた矛盾や不満といった共通意識を炙りだそうとする行為だ。感情を喚起するような音響も演出も施さない中立的なトーンのドキュメンタリー映像は、丹羽の素っ頓狂な奮闘の異様さを強調し、観るものを脱力もしくは慄然とさせる。

丹羽良徳 「誰も要求していない計画に全会一致で合意する」展示風景
PHOTO TAKAMURADAISUKE

いくつかのプロジェクトの顛末で、丹羽の行動は多様な背景を持つヨーロッパ大陸の人たちの関心を惹き、彼らの人生と周囲の社会にささやかに介入した。丹羽は社会活動家ではないが、芸術家としての彼の表現言語に潜在意識を刺激されたのだ。たとえ近現代史や政治経済という大きな物語へ影響を与えなくとも、新自由主義時代のこの殺伐とした世界を生きる私たちにとって、人間の価値と自由意思の多様性を合意するための「広場(PARCO)」を公開し続けてほしい作家だ。

INFORMATION

丹羽良徳 「誰も要求していない計画に全会一致で合意する」

2019.4.19-5.7
GALLERY X BY PARCO

PHOTO TAKAMURADAISUKE

WRITER PROFILE

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住吉智恵 Chie Sumiyoshi

アートプロデューサー、ライター。東京生まれ。慶応義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。1990年代よりアート・ジャーナリストとして活動。2003〜2015年、オルタナティブスペースTRAUMARIS主宰を経て、現在、各所で現代美術とパフォーミングアーツの企画を手がける。2011〜2016年、横浜ダンスコレクション/コンペ2審査員。子育て世代のアーティストとオーディエンスを応援するプラットフォーム「ダンス保育園!! 実行委員会」代表。2017年、RealJapan実行委員会を発足。本サイトRealTokyoではコ・ディレクターを務める。http://www.traumaris.jp 写真:片山真理

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