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INTERVIEW

杉本博司が、ヴェルサイユゆかりの偉人たちを呼び寄せる、世紀を超えた“降霊”のセレモニー

Written by 佐藤久理子|2018.12.19

Photo: Tadzio

フランスのヴェルサイユ宮殿が年に一度、現代美術のアーティストを招聘して開催する展覧会シリーズ。第11回目を迎えた今年は、杉本博司が選ばれた。10月半ばの爽やかな秋晴れを迎えた日、プレスを出迎えてくれた杉本に話を聞いた。

杉本はその舞台にヴェルサイユの本殿ではなく、小さく、素朴な味わいの残るトリアノン領地に白羽の矢を立てた。もともとルイ14世が公妾のために建設させた離れ家であり、ルイ16世からマリー・アントワネットに贈られた時代には英国式庭園が作られ、アントワネットが田舎風の生活を楽しむ息抜きのために使用された場所である。おそらくこう聞いて、なるほどと頷く人もいるのではないか。これまで自然との共生をテーマに取り上げてきた杉本と、トリアノンの組み合わせは、いかにもしっくりくる。杉本はこの選択をこう語る。
「じつは、今年改修を終えたトリアノンはどうかと最初に先方から誘いがありました。でもたしかに、本殿は豪華すぎてやりようがない(笑)。というより、あそこでやってもよくは見えないだろうと。それですぐにトリアノンに決めたのです。大きいものに大きいもので対抗するのではなく、大きいものに対しては小さいもので対応する。小さいことはいいことだ、というのを示そうとしたわけです(笑)」

杉本は小トリアノン宮殿を使って、彼が茶目っ気たっぷりに「ファントム展」と呼ぶ、蝋人形の肖像写真のシリーズを展示した。
「20年ほど前からわたしが制作してきた蝋人形のポートレートと、ヴェルサイユの関係性をみつけたのがきっかけでした。蝋人形館で知られるタッソー夫人はフランス人で、ヴェルサイユ宮殿に仕えた蝋人形師だった。そこでわたしは、まるで能の舞台で死者の亡霊を呼び出して語らせるように、ヴェルサイユを訪れた過ぎ去りし人々の霊を蝋人形として呼び寄せることにしたのです」
しかし本展には偶然の力も大きく関わっている。杉本がちょうどアイディアを決めて準備をしているとき、ルイ14世が存命中に作ったライフマスクがあるという連絡をヴェルサイユから受けたのだ。こうして、ヴェルサイユを象徴するルイ14世の肖像の新作ができあがった。これは杉本のこれまでの作品、エリザベス二世、プリンセス・ダイアナ、昭和天皇、フィデル・カストロ、サルバドール・ダリといった人々の肖像写真とともに、展示されている。

Hiroshi Sugimoto, LOUIS XIV, 2018, Gelatin silver print
© Hiroshi Sugimoto / with the permission of Château de Versailles
Photo: Tadzio

すべてヴェルサイユを訪れたゆかりの人々ばかりだが、キューバのカストロを選ぶあたりは、杉本流の皮肉の利いた批評精神というべきか。革命家で社会主義国家のシンボルであるカストロが、ヴェルサイユに鎮座するさまに、かつてフランス革命でギロチンにかけられた王族たちのことが頭をよぎる。
「カストロは革命家だし、長い因縁を考えればフランス革命の申し子でもあるわけです。でも革命が初めて起こったフランスは、その後共和国になり、帝政になり、再び王制が復古し、二転三転する。それで現代に至るわけですが、貴族社会が強く残っているのもまたフランス。とても不思議な国だと思いますね」

杉本流の辛口の視点は、「フランス式あずま屋(パヴィヨン・フランセ)」の展示にも表現されている。ここでは、彼が言うところの「もっとも濃い3人」、ナポレオンとヴォルテール、ベンジャミン・フランクリンが顔を付き合わせる。革命期の英雄から皇帝に即位して独裁政権を築いたナポレオンと、革命を引き起こすきっかけになった啓蒙思想を説いたヴォルテール、そしてその啓蒙思想に影響を受け、アメリカ独立戦争の立役者となったフランクリン。ともに革命、独立という言葉に関わりながらも、ナポレオンとは対極に位置するようなヴォルテールとフランクリンは、はるか何世紀も隔てたこの“降霊”のセレモニーで、暴君を前に何を思っているだろうか。

さらにアントワネットが愛した「王妃の劇場」では、ソフィア・コッポラの映画『マリー・アントワネット』(2006)を実際に上映し、そのスクリーンを大型カメラで捕らえた写真作品を展示している。

Hiroshi Sugimoto, Surface of Revolution, 2018
Courtesy of the artist © Hiroshi Sugimoto
Photo: Tadzio

もっとも、展示は写真だけではない。ジャンルや様式を超えて旺盛に活動を続ける杉本は、本展の題名にもなった立体オブジェ「Surface of Revolution」を小トリアノンのベルヴェデール亭に配置した。八角形のサロンの中に、幾何学的な模様のタイルが敷き詰められた場所に置かれた、アルミの無垢材を用いた数理模型は、非ユークリッド幾何学の双曲線関数で示されたものだという。では題名にある、まるで謎掛けのような“革命の表面”とは何なのか。
「レボリューションとはそもそも回転という意味だったのです。大きな政治体制ががらりと変わるということで、それが革命を意味するようになった。だからここでは、回転と革命をかけているのです」

Glass Tea House Mondrian, Bassin du Plat-Fond, Versailles, 2018, originally commissionned by Pentagram Stiftung for LE STANZE DEL VETRO, Venice. Architects: Hiroshi Sugimoto and Tomoyuki Sakakida / New Material Reasearch Laboratory.
Courtesy of artiste & Pentagram Stiftung
Photo: Tadzio

本展のクライマックスともいえるのが、ヴェネチアで制作したガラスの茶室を池に移築した「聞鳥庵/モンドリアン」だ。杉本が利休のわびさびの感性を汲んで作ったわずか畳二畳の小空間は、池の表面への美しき反映と相まって、凛とした姿をたたえる。それは能の舞台にも似て、極めて日本的なミニマリズムの美を放つ。
「マリー・アントワネットが心の安らぎを得た質素な場に、このミニマルな茶室を置くことで、わたしは利休とアントワネットというふたつの魂を呼応させたいと思いました。
自然との共生関係は、縄文時代以来、日本人の感性にとけ込んでいるものです。それは地球がさまざまな問題に直面している現代のような時代にこそ、日本人がプロモートする義務があると思うのです」

フランス王朝の絶大な栄華を象徴するヴェルサイユの片隅で、謙虚に、だが鋭意な眼差しをもって気炎をあげる杉本の声が、こだまするようだ。

Photo: Tadzio

WRITER PROFILE

Kuriko Sato佐藤久理子
佐藤久理子 Kuriko Sato

パリ在住。編集者を経て、現在フリー・ジャーナリスト。映画をメインに、音楽、カルチャー全般で筆を振るう。Web映画コム、白水社の雑誌「ふらんす」で連載を手がける。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

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