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PERFORMANCE

Aokid『地球自由!』
STスポット, 2019.3.7-11

Written by 呉宮百合香|2019.3.26

Photo by ShinichiroIshihara

パフォーミングアーツとヴィジュアルアートを軽やかに越境し、ブラックボックスからホワイトボックス、ストリートまで、様々な場で活動を展開するAokid。最初に彼を見たのは2011年、東京ELECTROCK STAIRSの舞台であったろうか。以来彼のパフォーマンスを見るたびに、爽やかな笑顔とキャラクター的な振る舞いの背後にある奥行きを測りかねていた。しかし本作における平面的な表現と立体的な表現のシームレスな移行は、その戸惑いをたちまち霧散させた。

Photo by ShinichiroIshihara

さて、本作の特大A1サイズのフライヤーは、手書きのタイトルと地球の絵からなるが、このイメージは作中でも大きな役割を果たす。薄暗がりの中、大判の画用紙に描かれた「地球」は、切り取られ、Aokidの手によって回転しながら空間を移動し、ぐしゃぐしゃに丸められて球体となり、宙に浮かぶ。このように平面が立体へと展開していく様は、作品の随所に見受けられる。ライブ映像と実際のパフォーマンスを掛け合わせたり、ドイツの野外で踊る「映像の中のAokid」を人形(ひとがた)として自分の手に写し取ったりと、Aokidの「平面」は活き活きと躍動し、折り紙のようにたちまち立体へと姿を変える。紙に描かれた地球の回転とブレイクダンスの回転技を二重写しにし、「地球」の運動を自らに乗り移らせたように、彼は二次元と三次元を自在に行き来するのである。

Photo by ShinichiroIshihara

しかしこれを単に、フラットな画面上でのヴァーチャルな体験に慣れ親しんだデジタルネイティブの感性と位置づけるのは、早計であろう。むしろAokidは、映像を介したダンス体験が主流になりつつある今日において「現実空間に人を集める」という行為、および劇場という場が持ちうる意味に、極めて自覚的であるように思われる。照明や音楽の転換によって時間を切断し、それを非連続的に配置・編集する。次から次へと飛び出すカラフルな場面を貫くのは、Aokid自身が持つ優れたリズム感覚である。緩急のある動きがピタッとあるポーズに結晶化する瞬間を間近で見つめ、小さな空間のあちらこちらから響いてくる音を聞くうちに、私たち観客の呼吸はいつしかAokidの「呼吸」に同期することとなる。この身体的な共振こそ、生の舞台の醍醐味と言えるだろう。

Photo by ShinichiroIshihara

Photo by ShinichiroIshihara

そして作品終盤、「3分ほどの自由時間」のあいだに自らの席を離れて舞台面と完全にフラットなエリアに移動するよう促された観客は、自分が先ほどまでいた荷物の残るその空間をAokidが踊りながらすり抜けてゆくのを目撃する。観客を観客のままでいさせながら、空間的・心理的隔たりを取り払い、体験を共にする時空間を創り上げる——「今ここに身体が共にある」ということをリアルに実感する瞬間だ。

谷川俊太郎は『二十億光年の孤独』の中で「万有引力は ひき合う孤独の力である」と詠ったが、この『地球自由!』という一見多幸的にも見える地球讃歌の通奏低音は、もしかしたら「孤独」なのかもしれない。笑顔を見せたまま、ひとり大地と格闘する彼の姿は、美しく浪漫に満ちていた。

Photo by ShinichiroIshihara

INFORMATION

Aokid『地球自由!』

2019年3月7日ー11日
STスポット

WRITER PROFILE

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呉宮百合香 Yurika Kuremiya

ダンス研究。主な研究対象は、2000年代以降の現代ダンス。また、ダンスアーカイヴの構築と活用をめぐるリサーチも継続的に行っている。2015-2016年度フランス政府給費留学生として渡仏し、パリ第8大学で修士号(芸術学)を取得。川村美紀子「地獄に咲く花」パリ公演をはじめ、ダンスフェスティバルや公演の企画、制作に多数携わる。「ダンスがみたい!新人シリーズ16・17」審査員。(独)日本学術振興会特別研究員(DC1)。現在、早稲田大学文学研究科博士後期課程在籍。

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