日本ダンス界で独特の存在感を示し続けてきた森下真樹。今回は『運命』の各楽章ごとに四人が振り付ける意欲的なソロ作品である。作風はバラバラだし、そのうち一人は写真家だ。昨年森下スタジオで初演された際は既成曲だったが、今回は今西泰彦によるピアノの生演奏である(筆者は初演時に海外取材中だったため、今回が初見、そして本稿はプレビュー公演を見ての評である)。
第一楽章の振り付けはタレントからリオ五輪セレモニーまで幅広く活躍するMIKIKO。黒のタンクトップに赤い短パンの森下が赤と白のロングドレスを着る。今西のピアノは劇的かつ分厚い音色で、速く急き立てるようなピッチで森下に襲いかかった。森下は四角く区切られた光の中、マイムで周囲の「壁」を押す。そこを抜けても隣にまた部屋が……と意図は明確だが、かなり説明的でもある。繰り返しの中にも変化はあるが、全体のトーンを一変させる瞬間がほしかった。が、指先を効果的に使うチャーミングさは森下のキャラクターにもよく合っていた。
踊り終わった森下は大きなビニール幕の後ろの机と椅子に就く。第二楽章(森山未來振り付け)のピアノは一転して穏やかになる。自分の顔や身体についての長所をマイクで読み上げては、ビニール幕の前に出てきてアピールする。その大仰なポーズがダンスとなり、森下のキャラクターを語っていた。
©石川直樹
第三楽章の振り付けは写真家の石川直樹である。一度は依頼を断ったが、断られたことに気づかず電話してきた森下を、石川は富士登山に連れ出したという。舞台一面にその映像が流れる。途中は余裕で踊りながら,最後は這いずるように登る森下。コンテンポラリー・ダンスにおいて「何かを動かすこと」は、それ自体が振り付けである。つまり誰かに「山を登れ」と言い、山を登る身体が様々に動けば、それがすでにして「振り付け」なのだ。本作は「振り付けの挑戦」としても楽しむことができる。
第四楽章は舞踏の大御所、笠井叡。森下は足の出た白いゆったりしたドレスでうつむき、背を丸め、ときに乱暴にベタ足でどかどかと歩き、運命と格闘するかのようだった。目に付いたのは、掌だ。常に両手を開いている。それは運命を受け止めるような、掴み取るような、与えるような、そして自分自身を慈しむような表情に満ちていた。
©bozzo
最後、演奏が終わっても森下は一人踊り続ける。運命の終わりは、自分自身で決めるものだからだろう。やがてしっかりと両足で床を掴んで立ち、朝日のような光の中に森下の肢体が浮かび上がる。挑戦に満ちた作品だったが、4人の振付家のバラバラなテイストが、最終的には森下真樹というアーティストを多面的に浮き上がらせていたのである。
そして今年2月には自ら立ち上げたカンパニー「森下スタンド」公演で、本作に自ら応答するかのように、森下自身がベートーヴェン第九の第二楽章に長尺で振り付けて気概を見せていたことも記しておきたい。