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PERFORMANCE

北村明子 Cross Transit project 『vox soil』
せんがわ劇場 2018.3.28~3.30 

Written by 住吉智恵|2018.9.25

写真:大洞博靖

 

振付家・ダンサーの北村明子は、ここ10数年にわたり、アジア各国とのプロジェクトの数々を展開してきた。2015年に開始した「Cross Transit」はカンボジア、ミャンマー、インド、インドネシアなど、アジアの国々とのリサーチを経て、意気投合したアーティストとの出会いからスタートした国際共同制作によるダンスプロジェクトだ。インドネシア、カンボジアに続き、インドのマニプールで伝統音楽「Lai Haraoba」の圧倒的な力強さと哀感に強く魅せられたことから、音楽家マヤンランバム・マンガンサナをドラマトゥルクに迎えて作品づくりに取組み始めた。この春、せんがわ劇場で観た『vox soil』は、きたる10月にKAAT神奈川芸術劇場とまつもと市民劇場でさらにディベロップした最新作『土の脈』として上演される。いずれもタイトルには、土地を通じて脈(パルス)のように繋がる声やリズムのイメージが重ねられている。

写真:大洞博靖

 

舞台にはアジア各国にルーツを持つダンサー7名(北村を含む)が代わる代わる現れる。マンガンサナと阿部好江(鼓童)の歌と演奏に身体言語で対峙するダンスはまさに「アジアの身体」を知り尽くした振付家によるものだった。足で地を踏み、叩き、練るような動作を軸とした振付はときに武術や祭礼を彷彿させる。速く力強いリズムと朗々と冴えわたる歌に呼応して、激しく雄弁な運動を見せるが、残された余韻はむしろ押し黙る寡黙さと流れる水の抽象性をもっていた。

写真:大洞博靖

 

たとえば2人のダンサーが絡むいくつかの場面では、生きものたちは目を合わさずに間合いを詰め、呼吸を探り合いながら距離を測る。そのコミュニケーションの様子はまるで互いを手なずけあおうとする野生動物だ。また後半、北村と阿部による「渡り合い」と呼ぶに相応しいシーンには冷たい刃物の切っ先で行われる決闘のような沈着冷静な昂奮があった。クライマックスでの出演者全員の群舞というより「群像」と呼びたいシーンは圧巻で、生きるためのあらゆる言語を全方位に拡張し、蜘蛛の巣のように張り巡らせた「繋がり」を現出させた。「踊りは、民族や国籍、言語の差を越えて、足元に広がる大地を通して繋がる行為」であるという、北村がアジアのリサーチで見いだした1つの「解」がそこには密やかに囁かれてもいた。

写真:大洞博靖

 

近年、アジア全域の国々は政治・経済的に足並みを揃え、国際社会で重要な役割を果たす。文化面でも現代的視点での交流が進むが、それは均質化を意味するのではなく、土地に根ざす音楽や身体の所作に受け継がれるルーツカルチャーが綾なす綴れ織りであり、重層的でありながら風の通るネット構造の融合となるべきだろう。本作は「未来のアジア」を展望する北村のビジョンを明確に示していた。

INFORMATION

アジア国際共同制作プロジェクト Cross Transit "vox soil"

2018年3月28日~3月30日
せんがわ劇場
演出・構成・振付・出演:北村明子

Cross Transit project 『土の脈』
2018年10月12日(金)〜10月14日(日)
KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ
http://www.kaat.jp/d/crosstransit

2018年10月20日(土)
まつもと市民芸術館 小ホール

WRITER PROFILE

Chie Sumiyoshi 住吉智恵
住吉智恵 Chie Sumiyoshi

アートプロデューサー、ライター。東京生まれ。慶応義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。1990年代よりアート・ジャーナリストとして活動。2003〜2015年、オルタナティブスペースTRAUMARIS主宰を経て、現在、各所で現代美術とパフォーミングアーツの企画を手がける。2011〜2016年、横浜ダンスコレクション/コンペ2審査員。子育て世代のアーティストとオーディエンスを応援するプラットフォーム「ダンス保育園!! 実行委員会」代表。2017年、RealJapan実行委員会を発足。本サイトRealTokyoではコ・ディレクターを務める。http://www.traumaris.jp 写真:片山真理

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