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PERFORMANCE

The Chain Museum / Co.山田うん『ドクダム』
@Restaurant 8ablish 2018.10.21

Written by 住吉智恵|2019.1.25

 

「芸術性」「抽象性」「コンセプチュアル」といった特性からか、コンテンポラリーダンスと万人に開かれたショーダンスとのあいだには長年にわたり超えられない一線があったと思う。ましてディナーショーと聞けば、連想するのはレストランのベリーダンスやフラメンコ、あるいはホテルやナイトクラブのエンターテインメントあたりだろう。食や酒と共に現代芸術を鑑賞するときに起こる化学反応の可能性に強い関心をもって、筆者自身も主宰するアートスペースでささやかな実験を行ってきた。

2018年に株式会社スマイルズ代表 遠山正道とクリエイター集団「PARTY」が立ち上げたプロジェクト「The Chain Museum」の第一弾は、本格的な食と酒とダンスが一体となった現代のディナーショーだ。ヴィーガンレストランを舞台に展開される着席のフルコースディナーとダンスのプログラムはなんと4時間。演じるのは、日本のダンスシーンでいま最も時代の“際”にいるダンスカンパニー〈Co.山田うん〉だ。男女16人の鍛えぬかれたダンサーの群舞と各々の個性を生かし、独自のテーマ性と抽象性を併せもつ、鋭利に磨き込まれた舞台はこれまで多くの観客を熱狂させてきた。

ショーの導入部は決して口当たり良くはなく、刺激と緊張に満ちていた。揃いのシェフコートを着た真顔のダンサーたちが、ストラヴィンスキーの楽曲と共にいびつに絡みあい、観客の至近距離に迫り、卓上をリフトされて移動する。執拗に反復されるアクションと手加減のない身体の量感は、澄まし顔で鎮座する人々(ダンスファンとは限らない)を少なからず不穏な気持ちにさせ、弛緩した意識をがつんと揺さぶったはずだ。やがて白いテーブルクロスがかけられ、お待ちかねのディナーの始まり。滋味深い料理と酒と会話で緊張がほぐれたところで、いよいよ第2部が開幕する。コミカルなデュオの渡り合いあり、ショートショートの芝居あり。甘美なカタルシスに誘うデザートブッフェ。指名された1人の観客の人生を謳いあげる即興の弾き語り。うっとりする場面とシュールな場面が巧みに構成され、テンションを上げていく。ラストはカンパニーのお家芸ともいえるエネルギッシュな群舞が、祭りのお囃子調のマーチに合わせて繰り広げられる。

撮影:住吉智恵

祭りのクライマックスは終演後にやってきた。大喝采のあとすぐに出演者と観客が乾杯できる格別の時間だ。劇場なら楽屋を訪ねるほど近しくない観客も、アーティストと同じ目線で杯を交わし、語り合うシーンこそ、この夜のフィナーレだ。レストランとステージ。レシピと振付。接客とパフォーマンス。すべて身体を媒介とする要素が融合し、さまざまな人生が交錯する。この飲食の場ならではのヒューマンスケールの芸術体験は、劇場文化から一歩踏み込んだ感情生活を喚起する新たなジャンルとなるかもしれない。

 

 

INFORMATION

The Chain Museum 「ドクダム」by Co.山田うん

演出・振付:山田うん
台本:西島明
出演:飯森沙百合 川合ロン 河内優太郎 木原浩太 小山まさし 猿飛佐助 西山友貴 長谷川暢 広末知沙 三田瑶子 山口将太朗 山崎眞結 山田うん
協力:TWIGGY. 本能中枢劇団

WRITER PROFILE

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住吉智恵 Chie Sumiyoshi

アートプロデューサー、ライター。東京生まれ。慶応義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。1990年代よりアート・ジャーナリストとして活動。2003〜2015年、オルタナティブスペースTRAUMARIS主宰を経て、現在、各所で現代美術とパフォーミングアーツの企画を手がける。2011〜2016年、横浜ダンスコレクション/コンペ2審査員。子育て世代のアーティストとオーディエンスを応援するプラットフォーム「ダンス保育園!! 実行委員会」代表。2017年、RealJapan実行委員会を発足。本サイトRealTokyoではコ・ディレクターを務める。http://www.traumaris.jp 写真:片山真理

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