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ファビアン・プリオヴィル・ダンス・カンパニー「Rendez-Vous Otsuka South & North」
星野リゾート OMO5東京大塚, トランパル大塚 2020.10.17-11.12

Written by 伊達なつめ|2020.12.19

 今年の前半は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、毎春〜夏に開催される国際舞台芸術フェスティバル中止の報が次々に入るのを、ため息をつきながら眺めているしかなかった。特に、ドイツ語圏(ドイツ・オーストリア・スイスの一部)で前年上演された数百の演劇作品から注目の10本を選ぶテアタートレッフェン(ベルリン演劇祭)では、岡田利規(作・演出)の『The Vacuum Cleaner』が選出されるという快挙が達成されていただけに、例年であれば5月にベルリンで行われる受賞記念の上演がかなわなかったことが、返すがえすも残念だった。
 中止を余儀なくされた芸術祭の多くは、参加予定だったアーティストの作品の映像を無料配信したり、オンラインによるシンポジウム等の関連行事を積極的に行って観客のニーズに応え、芸術祭のプレゼンス確保に努めていた。一応、貴重な映像もあったのでいくつか視聴してみたが、不甲斐なくもすぐに集中力が途切れて、あまり利用せずじまいだった。コロナ禍で、すでに配信ラッシュが常態化して飽和状態に陥っていたせいもあるけれど、ふだん遙々とヨーロッパまで出かけ、その土地に集うことで得られていた体感や経験こそが、フェスティバル=祭りのエッセンスであることを、改めて思い知らされた面も大きい。
 そうこうしているうちに、東京に秋の芸術祭シーズンが到来した。欧米に比べると感染者数が少ない日本では、劇場は再開しているが、国際芸術祭の主眼である海外勢の来日までは、実現に至らないのが現状。つまり、観客は上演の場に出向くことができるが、パフォーマーは来られないという状態だ。

 フェスティバル・トーキョー(F/T)で上演されたファビアン・プリオヴィル・ダンス・カンパニーの『Rendez-Vous Otsuka South & North(ランデヴー・オオツカ・サウス・アンド・ノース)』は、まるでこの状況を見越していたかのような快作だった。これまでにもスカイプやスマートフォンなどのコミュニケーション・デバイスを使ったダンス作品を複数発表している振付家で、ゲーマーでもあるというファビアン・プリオヴィルは、本作ではVRを使用。JR大塚駅南口の広場と、北口にできた星野リゾートのホテルのロビー兼カフェ・スペースにやって来た観客に、5分間の不思議なヴァーチャル体験を供した。

 たとえば北口のホテルでは、観客はひとりずつ、指定されたカフェの片隅に腰を下ろす。目に入るのは、椅子やテーブル、壁面の棚の置物、前方の席でPCに向き合う人など、何の変哲もないカフェの風景だ。これはもしや、VRで現出する別世界とのギャップを際立たせるための演出か、と身構えた。が、VRセット装着後に眼前に現れるのは、装着前と同じ場所。拍子抜けしていると、そこに4名のダンサーが現れて、手が届きそうな距離にまで近づいてきて踊り出し、こちらの顔をのぞき込むように睨みつけたり、壁の棚に入って横たわったりしながら迫ってくる。なんだか白日夢か、誰かの妄想を追体験しているかのよう。装置を外すと、何事も無かったように日常のカフェに戻っているので、その感覚が一層強くなる。
 誰かの脳内の世界が目の前でビジュアル化され、また元に戻る。しかも決められた時刻に、決められた場所に赴かないと、それは起こらない——。VRというハイテク映像を使っていながら、その構造は、同じ空間にいるひとりがそこを横切って歩き、もうひとりがそれを見つめることで成立するという、ピーター・ブルックが言う演劇行為の原点に基づいている。観客として、空想の世界をリアルに実感し、ひとりほくそ笑むような、ちょっと蠱惑的な観劇体験だった。

 ちなみに、山手線内でもかなり地味な駅だった大塚は、ここ数年、再開発事業によって、駅周辺の風景(だけ)が激変している。昔からなじみのある土地なのだが、今回ひさびさに北口に降り立ち、駅前のこじゃれた様変わりぶりを見て唖然とした。会場になったホテル以外にも新しいビルが建ち並び、工事中の広場には巨大なモニュメントが設置されて、まるで新興都市。この風景の方が、よほど仮想現実然としているのだ。VR作品を見終わって外に出ると、さらにヴァーチャルな世界が広がっている。クリストファー・ノーランの『インセプション』ばりの、壮大な入れ子構造的効果まで味わってしまった。プリオヴィルは、果たしてそこまで想定していたのだろうか……。
 フェスティバルはつねに、開催される場所とともにあるもの。今年は行けなかったお祭りと参加できたお祭り、双方で、その本質を痛感する年となった。

INFORMATION

ファビアン・プリオヴィル・ダンス・カンパニー「Rendez-Vous Otsuka South & North」

公演日程:2020年10月17日〜11月12日
会場:(北)星野リゾート OMO5東京大塚 各日20回/各回定員2名
   (南)トランパル大塚 各日15回/各回定員2名

コンセプト・振付:ファビアン・プリオヴィル
出演:近藤みどり、田中朝子、中川 賢、吉﨑裕哉
音楽:UZAWA
リハーサル・ディレクター:瀬山亜津咲
撮影・編集:株式会社Global Japan Corporation
製作:ファビアン・プリオヴィル・ダンス・カンパニー
主催:フェスティバル/トーキョー

WRITER PROFILE

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伊達なつめ Natsume Date

演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や『act guide』などの専門誌、『TJAPAN』『otocoto』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査員等歴任。”The Japan Times”に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿は→ https://natsumedate.at.webry.info/

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