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PERFORMANCE

Hello, Wendy! セカンドアルバム『No.9』リリースライヴ
SuperDeluxe. 2018.8.23

Written by 住吉智恵|2018.10.25

Photo: P.M.Ken

バッファロー・ドーターの大野由美子をリーダーに、マイカ ルブテ、AZUMA HITOMI、新津由衣の「宅録派シンセ女子」4人で結成されたシンセサイザー・カルテットがHello, Wendy!だ。そのセカンドアルバム『No.9』のリリースライヴが、バッファロー・ドーターの主催により六本木のSuper Deluxeで行われた。この夜はまさに「大野由美子祭り」で、21年ぶりに活動を再開した立花ハジメのLow Powers、シュガー吉永と吉田由加のユニットMetalchicks、そしてASA-CHANGをゲストに迎えたHello, Wendy!と、全バンドのステージに大野が参加。エレクトロニックミュージック・シーンの重鎮となった彼女の音楽的交流領域の深度を再確認させた。

Photo: P.M.Ken

伊藤桂司がADを手がけたアルバムジャケットの端正なコンサートホールの情景からもうかがえるように、アルバム収録の全10曲は「クラシック」というキーワードに貫かれている。5曲が書下ろしのオリジナル曲、ほか5曲はカバー曲。ベートーヴェンの「第九」。Mが1979年にヒットさせたテクノポップの記念碑的作品「Pop Muzik」。坂本龍一の『音楽図鑑』収録曲である「Self Portrait」。デトロイト・テクノのジェラルド・ミッチェルが参加したジェフ・ベックの「Star Cycle」。ビーチ・ボーイズがキャピトル契約以前に録音した知られざる名曲をアカペラで表現した「Lavender」。時代もジャンルも異なるが、紛れもなくその道の「古典」といえる楽曲を揃え、彼女たちが結実させようとする音楽性をくっきりと表明した。

ライヴでは、世界で初めてコンピュータが歌った曲として知られ、『2001年宇宙の旅』ではコンピュータHAL 9000がカバーした「Daisy Bell / A Bicycle Built for Two」、さらにポール・マッカートニー「幸せのノック」のカバーも披露。シンセサイザーと女性のヴォイス、両方の特性を存分に生かす楽曲が繊細に選ばれ、おのずと透明感に満ちたハーモニーの美が立ち現れた。

Photo: P.M.Ken

1990年代からバッファロー・ドーターが標榜してきた音楽は、オルタナティブであれエレクトロニックであれ、あくまでロックだった。一方、大野がこのカルテットで構築しようと試みるのは、時代を超えてポップでありながらもクラシックの香り立ちこめる、2030年の喫茶ウエストで“グランマとグランドーターが愛でる音楽”である。バッハやラヴェルの楽曲が彼らの時代のポップであったという意味での「かろみ」の妙を、Hello, Wendy!は電子楽器の古典であるシンセで表現したのだ。

シンセサイザーは人間の生の触感を伝えずに歌わせることのできる楽器として世に現れ、その役割はデジタル機器に取り代わられたように思えたが、牧歌的で柔和なそのサウンドは多幸感をもたらす代替のきかないサウンドマシーンとして愛され続ける。そこにピュアな女性のコーラスとくれば、もはや無敵のお花畑から世界への逆襲だ。客席の90%を占めていたファンの中年男性たちがうっとりと揺れていた緻密な音の重なりに、力技のコントロールやポピュリズムが介入する隙は一切ないことを確信した。

Photo: P.M.Ken

バッファロー・ドーター
年内目標で過去作品のヴァイナル化を予定。制作中のアルバムは来年リリース予定。

INFORMATION

Hello, Wendy! セカンドアルバム『No.9』リリースライヴ

Buffalo Daughter presents
Hello,Wendy! 2nd album release party
Front act: Metalchicks, 立花ハジメとLow Powers
8月23日(木)
@ SuperDeluxe

WRITER PROFILE

Chie Sumiyoshi 住吉智恵
住吉智恵 Chie Sumiyoshi

アートプロデューサー、ライター。東京生まれ。慶応義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。1990年代よりアート・ジャーナリストとして活動。2003〜2015年、オルタナティブスペースTRAUMARIS主宰を経て、現在、各所で現代美術とパフォーミングアーツの企画を手がける。2011〜2016年、横浜ダンスコレクション/コンペ2審査員。子育て世代のアーティストとオーディエンスを応援するプラットフォーム「ダンス保育園!! 実行委員会」代表。2017年、RealJapan実行委員会を発足。本サイトRealTokyoではコ・ディレクターを務める。http://www.traumaris.jp 写真:片山真理

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