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PERFORMANCE

関かおりPUNCTUMUN
「みどぅつなみた」「ひうぉむぐ」
町屋ムーブ 2019.2.20 – 21

Written by 石井達朗|2019.3.19

撮影:松本和幸

関かおりによる新作2作品。ムーブ町屋ムーブホールの美点を活かしきっていた。ゆるやかな傾斜の客席から広々とした舞台を見下ろす劇場空間が、肌色のレオタードを纏って身を寄せ合うダンサーたちを淡い光のなかに包む。関の振付けの密度がよく見える。ダンサーたちの呼吸にあわせるように、劇場全体がゆっくりと息づき始めた。

撮影:松本和幸

前半『みどぅつなみた』は、北村思綺、髙宮梢のデュオである。去年アメリカ公演したものを若い女性ダンサーに振り移しただけあり、一見たゆたうように体をコンタクトさせながら動いていても、緩急のタイミングや二人のポジションなどは精確だ。北村と高宮は振り付けられたということを忘れさせるほど、それぞれが自律した生命体となっている。そこまで関の身体言語を自分のものにしていた。体と手が触れ合って擦れてゆくとき、かすかにエロスが漂う。水の音や小鳥のさえずりなどをミニマムに使った堤田祐史のサウンドが、控えめなアクセントをつけてとても良かった。

超スローで微細な動きによる特異性はどこにあるのだろうか。水の音を聞いて思ったのは、(比喩が飛躍するが)トンネルの内部がいつも湿っているということだ。水が漏れることにより保たれている大きな構造の強度というものがある。関作品の場合、構造のトータルな有り様よりも、うっすら漏れている水からイメージがにじみ広がる。それは感覚的で触覚的だ。ちょっとシアトリカルにしてみせようなどという俗気がないぶん、危うい作業でもある。

撮影:松本和幸

撮影:松本和幸

休憩後の後半『ひうぉむぐ』は、進化した関の振付をさらにくっきりと見せる。北村と高宮に岩渕貞太、清水駿、鈴木隆司、矢吹唯が加わり、女性3名・男性3名となる。この6名のダンサーたちの出と入り、体のかしぎ具合、フォーメーションの変容、そして時おり全体を支配する超スローモーションを破る速度の変化、突然鳴る電子音―その全体が緻密に構成されている。シンメトリカルなかたち、予測できるもの、整合性のあること・・・などは意図的に避けられ、絵画の「アンフォルメル」のように焦点をもたない。

関かおりといえば、横浜ダンスコレクションでの『Hetero』、トヨタコレオグラフィーアワードでの『マアモント』という2012年の受賞作が強く印象に残る。『ひうぉむぐ』もその延長線上にあるが、動きのタイミングのズレ、違った要素の同時進行、体の一部分を脱力するような仕種や佇まいなどは、以前は見られなかったものだ。寄り道をせずに自分の方法論を切磋琢磨した結晶が、『ひうぉむぐ』の充実につながっているように思える。ただ、この完結した時空は閉じられた印象をもつことも確かである。時空を打ち破ってもうひとつのフェイズ(位相)に入ってゆく戦略が出てきたときに、舞台にも客席にも、もうひとつ新たな想像力が生まれるような気がする。

 

INFORMATION

関かおりPUNCTUMUN新作公演 2018年国際共同制作作品
「みどぅつなみた」「ひうぉむぐ」

2019年2月20日、21日
ムーブ町屋ムーブホール

WRITER PROFILE

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石井達朗 Tatsuro Ishii

舞踊評論家。ニューヨーク大学パフォーマンス研究科研究員などを経て、慶応大学名誉教授。主な関心は、アジアの祭祀芸能、ポスト・モダンダンス以降の新しい表現活動。トヨタコレオグラフィーアワード、朝日舞台芸術賞、カイロ実験演劇祭, Wifi Body Festival (マニラ)などの審査員。著書に『異装のセクシュアリティ』『身体の臨界点』『男装論』『サーカスのフィルモロジー』『ポリセクシュアル・ラヴ』ほか

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