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PERFORMANCE

新作能『利休ー江之浦』
小田原文化財団 江之浦測候所 2018.10.18

Written by 氷川まりこ|2019.1.30

©Odawara Art Foundation

かつて小田原攻めの際に、同行した千利休に命じて秀吉が結ばせたという茶室「天正庵」跡。そこからほど近い土地を手に入れたところから現代美術家・杉本博司の壮大な新作能プロジェクトははじまった。

亡霊を主人公とする画期的な作劇法を完成させた世阿弥の能と、「土地の歴史・記憶」を常にテーマとしてきた杉本の作品は、600年以上の時間を超えて、高い親和性を発揮する。思いを残した土地に引き寄せられるように現れる亡霊は、昔日を懐かしみ、つかのまのオンステージを繰り広げ、やがて何処ともなく消えていく。

 

©Odawara Art Foundation

新作能『利休―江之浦』は、利休自刃の30年後という設定。その舞台に利休の魂魄を呼び出すための装置として杉本は、利休作と伝わる竹花入「おだはら」を手に入れ、利休の末裔である茶人・千宗屋を舞台に登場させた。昨年2月のMOA美術館でのスペシャルプレビューの後、11月のニューヨークでのワールド・プレミア上演を経て、この秋、ついに念願の地である江之浦測候所の石舞台での上演を迎えた。

©Odawara Art Foundation

もうこれ以上は削れない、というギリギリのところまで無駄をそぎ落とすことで、能という芸能は成り立っている。逆に言えば、そこまで削り込んで、初めてその作品は本物の「能」になる。つくり手は、それを十分にわかった上で作品を世に問うのだが、実際に舞台で演じられてみるとまだ贅肉があることに気づかされるのが新作能の常だ。

©Odawara Art Foundation

MOA上演時には多くの点で「まだ削れる」部分が目についたが、今回、そのほとんどに検討・変更が加えられていた。もっとも大きな変更点は千宗屋が舞台上で茶を点てる「茶事」の扱い。MOA版では、利休の亡霊が仮の姿の老人として現れる前場と自刃時の本性となって登場する後場をつなぐいわゆる〈中入り〉の場面で行われていたが、今回は「茶事」を冒頭に置いて、利休の亡霊を誘い出す序章となっていた点だ。また、後段で本性となった利休の亡霊も、自刃の刀を振りかざして激しく動き回る姿から、グッと動きを抑えて、利休の心の内に観客の意識を向けさせることに成功していた。詞章(上演台本)も大幅に削り、役者の舞台への登場や退場をテンポよくすることで、2時間近かった上演時間は80分ほどになった。

©Odawara Art Foundation

それでもまだこの作品は「完成」ではない。上演を繰り返すごとに見つかる無駄や冗長をひとつひとつ削り落し、多くの人の手と心を介して、変化しつづけることができるか否か。その幸運な道のりを経ることができた新作だけが「未来の古典」になる。いつの日か、完成し古典となった『利休―江之浦』は、どんな作品になっているのだろうか?

 

 

INFORMATION

江之浦測候所 一周年記念特別公演 新作能『利休―江之浦』

公演日時:2018年10月18日(木)15時
会場:江之浦測候所 石舞台
企画・監修:杉本博司
作:馬場あき子
節付・型付:浅見真州
舞台監修:片山九郎右衛門、杉本博司
囃子作詞:亀井広忠
茶の湯監修:千宗屋
主催・企画制作:公益財団法人小田原文化財団

WRITER PROFILE

Mariko Hikawa氷川まりこ
氷川まりこ Mariko Hikawa

1963年東京生まれ。國學院大學文学部在学中から放送・出版の仕事をはじめ、FM横浜に入社、番組の企画・編成を手掛ける。独立後、雑誌『Hanako』や『クロワッサン』で編集に携わる。90年代半ばから「伝統と現代」をテーマとして、能・狂言を中心に、茶、禅、花、香など東山文化の芸道、芸能を専門に書籍や記事の編集・執筆、講演を行う。著書に『能の新世紀』(小学館)、『新作能 紅天女の世界』(白泉社)、『鼓に生きる』(淡交社)ほか。  

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