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藤元明緒監督 2018.10.6-
SCREENING

『僕の帰る場所』
藤元明緒監督 2018.10.6-

Written by 澤 隆志|2018.10.1

© E.x.N K.K.

2012年のロッテルダム映画祭でアキ・カウリスマキの『ル・アーブルの靴磨き』を観た。アフリカ系移民がル・アーブルに漂着する良心のドラマ。奇しくも現代美術家ニコラ・プロヴォストは同テーマで移民のいささか強引な愛の物語『インベーダー』を披露。西欧を侵略する移民という深層心理を描いた。皮肉なのは、両作品の上映館内にはほとんど有色人種がいなかったこと。駅の向こうのコーヒーショップと好対照だった…

さてアジアは。劇映画『僕の帰る場所』は日本/ミャンマー3本目の合作映画である。10月6日より東京で劇場公開。その直前、「ワッタン映画祭」でミャンマー初上映。筆者も満員の観客と共に東京/ヤンゴンにまたがる家族の物語を観ることができた。

幼いカウンくんとテッくん。母のケインと東京のアパートでひっそりと暮らす。生活に余裕のない母は故郷ミャンマーに思いを寄せる。父アイセは難民申請が退けられ、それでも日本で生きる術を探る。子供らは父母より日本語が達者だ。つかの間の団らんも日本語、ミャンマー語の境で揺れながら、親密で危うい一瞬を過ごすが… 子供にとっては「大人は判ってくれない」、大人にとっては「国家は判ってくれない」の構図、日本の国民ー移民ー難民のありかたはまだまだ発展途上である。

© E.x.N K.K.

兄弟と母役は実の親子である。父役はかつて日本で様々な苦労を体験した一般のミャンマー人である。皆が映画初出演。藤元明緒監督は企画から制作に5年をかけたそうだが、驚くべきは、他人である父アイセが来日したのはなんと撮影1ヶ月前とか!泣いたり笑ったり臥せったり呆然と立ち尽くしたり。彼らの演技にはリアリティの厚みがあり、それ故に架空の物語の芯を作り出す。映画祭のティーチインでは是枝作品との比較が取り上げられ、兄役のカウンくんを『誰も知らない』の柳楽優弥になぞられていた。

© E.x.N K.K.

カウンくんの声。邦画でも洋画でも、演技派の映画俳優や子役がここぞというシーンで決め台詞をくっきりはっきり発話してトーンが台無しになるさまを経験することが多いなか、久しぶりにスリリングな振る舞いを見た。そう、子供とは、いつも覇気がなく、大事なときに大事なことが言えないもので、しょっちゅう目が泳いでいて、自信なくうつむいている生き物ではなかったか。この映画は、「在日外国人」「帰還移民」などセンシティブなテーマを適度にぼかし、母語を奪われたものたちの声(とその聞き取りづらさ)を描くことで、特定の問題にとどまらず普遍性を持った“家族の物語”となった。

© E.x.N K.K.

被災者同士の対話だけで構成し、表情と声色に注視できたドキュメンタリー映画『なみのおと』(酒井耕+濱口竜介 2011 )が、3/11を描きつつ、ある種の普遍性をもち、“ダメージを受けた日本人の肖像”となったように。

INFORMATION

日本・ミャンマー合作映画 『僕の帰る場所』

2017年製作/日本=ミャンマー/98分
脚本・監督・編集:藤元明緒
出演:カウン・ミャッ・トゥ、ケイン・ミャッ・トゥ、アイセ、テッ・ミャッ・ナイン、來河侑希、黒宮ニイナ、津田寛治 ほか
2017年/日本=ミャンマー/98分
2018年10月6日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

WRITER PROFILE

Takashi Sawa
澤 隆志 Takashi Sawa

イメージフォーラムのフェスティバルディレクター(2001-10)を経て現在はフリーランスのキュレーター。
あいちトリエンナーレ(2013)、東京都庭園美術館(2015,16) 、青森県立美術館(2017,18)などでキュレーション。また、「Track Top Tokyo」 (2016) 、「都市防災ブートキャンプ」(2017)、「めぐりあいJAXA」(2016-18)など都内の隠れたセクシー物件でイベントを行っています。

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