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ラップ・イン・プノンペン 長い予告編
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Written by モモコモーション|2018.12.3

© kuzoku

 

この映像について、ほとんど予備知識がないのでレビューなど書いて良いものか迷ったのだけれど、見始めてすぐ「長い予告編」という意味深なタイトルがでてきてほっとする。つまり「本編ではない」のだから、ゆっくりと知る楽しみがあるのだ。しかし、そこには、身に覚えのあるひりひりした感覚があった。日本人として東南アジアに入っていくときのあの感じ。でも私がバンコクに降り立った時と決定的に違うのは、この動画の主人公的な旅人YOUNG-Gさんには、はっきりとした目的があるということ。「この国(カンボジア)にヒップホップがどこにあるのか、知りたい」とつぶやく彼。しかし、映像は都会の音楽とは似つかわしくない風景へと入っていく。日に焼けた半裸の男が小鳥をつかまえて羽をむしり(このあと焼いて食べるのかも)、CD屋に入ると「レコードはない、あってもすごく高い」とあっさり言われ。川沿いで子供が泳ぎ大人は魚釣の網を撒いている。少々ふてくされ気味でホテルに籠り、日本のテレビ番組を見るYOUNG-Gさん。なんかわかる。そういう気持ち。しかし、私の場合は何かを真剣に探していなかったし、東南アジアといえども、結局はバンコクという都会の中で、私と同じように退屈を嫌うタイの若者たちとぬくぬくとして、タイの地方はもちろん、カンボジアにまで彼のように音楽を探しになど行かなかった。

 

YOUNG-Gさんは目的地である「KlapYaHandz」というインディーズのヒップホップレーベルのオフィスにたどり着き「すげえ」を連発する。それは、わかる。私も「すげえ」と思ったこと何度もある。バンコクでもそう感じたのだから、急成長中のプノンペンならなおさらだ。さっきの発展途上国の風景とは、全くかけ離れた世界。格差社会とか、文化的ギャップという言葉では埋められないほどの大きすぎる隔たり。ビルのなかは完璧なコンディションで、気のよさそうなラッパーたち、きれいな英語を話すスタッフ、整ったスタジオ機材。「このビル1本自分たちのものってすげえ、大きな映画プロダクションの一部だって、すげえ」とYOUNG-Gさんは言い、自己紹介もする。「東京から2時間離れた街で僕らもインディレーベルをしてる」というと、オフィスの人は「2時間も?」と驚く。2時間も離れたら貧しい農村しかない国から見るとあえて都市から距離をおく日本の今っぽい心意気は伝わりにくいのかも。

© kuzoku

 

YOUNG-Gさんの目的は「音楽でみんな分かり合える」とかそんなシンプルなものではないはず。だけど単にDJとして「レアな音源を発掘」するだけの旅でもなさそうだ。動画は最後、YOUNG-GさんがiPhoneでかける音源に合わせカンボジアのラッパー達が集まって即興で言葉を紡ぐシーンで終わる。それは「ストリート」ではなく「ビルの屋上」で行われ、何かを象徴しているようにも見える。YOUNG-Gさんはこれから「本編」に入っていくのだろう。動画の途中、ポルポトと音楽について少し触れるような会話もあったし、本編では日本とカンボジア、現在、過去、未来についての、どうしようもなく存在する断絶やねじれに彼が直面していくのかもと思うと、私はまだ本篇を見ていないのに感動を覚えさえした。

 

INFORMATION

『ラップ・イン・プノンペン 長い予告編』

出演:YOUNG-G、ヴィサル・ソック
監督:富田克也
Special Thanks:Klap Ya Handz
2018年 / 20分

WRITER PROFILE

モモコ モーション
モモコモーション

日本生まれ。サンフランシスコに留学後、なぜかタイに住み始め、現地でタイ人、英国人と共にバンドFUTONを結成。バンコクの大学生を中心にインディーズシーンで人気となる。ベトナム、上海、マレーシア、シンガポール、イギリス、フランス、ドイツにもツアーをし、東京でも菊地成孔、野宮真貴、バッファロードーター、コーネリアスなどと共演。エイベックスから日本版アルバムも発売された。現在は東京に在住、ソロのシンガーソングライターとして都内でライブ活動など行う。2017年にシングル「フェイクフード/すっぱい葡萄」を発売。www.momokomotion.com

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