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三宅唱監督・脚本・編集 2019.3.30公開
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『ワイルドツアー』

三宅唱監督・脚本・編集 2019.3.30公開

Written by 福嶋真砂代|2019.4.4

© Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

山口県山口情報芸術センター[YCAM]、磯崎新設計による建物の流線型の屋根の上を若者たちがスイスイ歩き、将来のことなど、たわいない話をしている。雄大な山口の風景を背景に撮られた少しシュールなシーンが印象的だ。「もしかしたら未来社会の姿が山口にあるのではないか」と、自然とテクノロジーの無理のないバランスの中に感じた三宅唱監督。最新作の『ワイルドツアー』は、YCAMが実施する滞在型映画制作プロジェクト「YCAM Film Factory」の第4弾(柴田剛、染谷将太、映像制作集団「空族」の作品に続く)として作られた。「第11回恵比寿映像祭」にて東京で初上映され、このたび劇場公開になった。同映像祭ではiPhone撮影による映画『無言日記2018』の上映や、ビデオインスタレーション「ワールドツアー」の展示も行われ、15日間の期間中に多くの観客が鑑賞した。

© Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

 

『ワイルドツアー』は、「採取した植物のDNAを解析し、植物図鑑をつくる」というYCAMで実際行われているワークショップを題材にして物語が進む。物語の中心にはワークショップファシリテーター役の大学1年生のうめ(伊藤帆乃花)ちゃん、そして中学3年生のタケ(栗林大輔)とシュン(安光隆太郎)、ほかにブルージャケットの男子コンビチーム、パワフルな女子高校生のチームがそれぞれ植物採取の探検に出かける。ブルー男子コンビが雪の海岸で見つけた珍しい石の行方、タケとシュンの「80回したら死ぬぞ」の”しゃっくりエピソード”、恋の告白、失恋、出会いと別れが描かれ、成長していく彼らのきらめく瞬間を捉える。「リアルとかナチュラルでは収まらない、人間やこの社会の“ワイルド”な部分を捉えたい」という三宅の思いから、演技経験のない地元の中高生たちを起用して、例えば「彼らとラーメンを食べながら聞き取ったワードを盛り込んだシナリオを作り、それを週末に渡すというやり方をした」と演出秘話を明かしてくれた。

© Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

 

生まれた時からデジタル機器に馴染むデジタルネイティブがデフォルトになる次世代。ではこれからの映画はどういう形になるのか。iPhoneで日常を撮る『無言日記』など、既存の形にとらわれない映画制作を試みる三宅は、技術の進歩による可能性の広がりに注目し、YCAMとのコラボレーションによる「新しい発見」を試みた。そういえば、発見した植物とキャストが同列に並んでエンドクレジットに流れる。一緒に「新種の発見」を見届けたようで楽しくなる。ホンマタカシ撮影によるメインビジュアルの求心力、三宅作品に欠かせないHi’Spec(ハイスペック)の音楽も最高だ。

© Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

 

INFORMATION

ワイルドツアー

監督:三宅唱/出演:伊藤帆乃花、安光隆太郎、栗林大輔
2018年/日本/カラー/67分/制作:山口情報芸術センター[YCAM]

第11回恵比寿映像祭 「トランスポジション 変わる術」
https://www.yebizo.com/

WRITER PROFILE

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福嶋真砂代 Masayo Fukushima

旧Realtokyoでは2005年より映画レビューやインタビュー記事を寄稿。1998~2008年『ほぼ日刊イトイ新聞』にて『ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。』などのコラムを執筆。2009年には黒沢清、諏訪敦彦、三木聡監督を招いたトークイベント「映画のミクロ、マクロ、ミライ」MCを務めた。航空会社、IT研究所、宇宙業界を放浪した後ライターに。現在「めぐりあいJAXA」チームメンバーでもある。

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